名鉄キハ8500系気動車

名鉄キハ8500系気動車：その生涯と活躍

名古屋鉄道（名鉄）が1991年に導入した特急形気動車、キハ8500系。高山本線へ直通する特急「北アルプス」用として、先に導入されたキハ85系をベースに開発されました。本稿では、その誕生から名鉄での活躍、会津鉄道への譲渡、そしてマレーシアでの再起まで、その波瀾万丈な生涯を詳細に解説します。

概要

キハ8500系は、特急「北アルプス」で使用されていたキハ8000系の置き換え用として、5両編成（先頭車4両、中間車1両）で製造されました。全車両が動力車であり、普通車のみでグリーン車は存在しません。キハ85系をベースに開発されたものの、名鉄線内での高速性能を重視し、カミンズ製エンジンを採用することで、電車並みの加速性能と最高速度を実現しました。

登場の経緯

1965年から国鉄（現JR東海）高山本線への直通列車を運行していた名鉄。当初は冷房完備のキハ8000系が活躍していましたが、1990年代には老朽化が進み、接客設備や走行性能が見劣りするようになりました。JR東海が特急「ひだ」を新型車両キハ85系に置き換えたことを機に、名鉄もキハ8000系の置き換えを検討。その結果、高速性能を確保するためにカミンズ製エンジンが選定されました。これは、キハ85系が同社のエンジンを採用していたことが、その後の協議をスムーズに進める大きな要因となりました。

構造

車体

車体は全長20,800mm、全幅2,740mmの全鋼製で、キハ8000系よりもわずかに拡大されています。腐食が予想される扉周りや屋根にはステンレス材が使用されています。側面窓は1000系「パノラマSuper」のデザインを継承し、大きなR角が特徴です。窓の幅は1,700mm、高さは980mmで、客用扉は幅800mmの2枚折戸です。エンジン音を遮断するため、床は二重構造、側面窓は複層ガラスとなっています。床面高さはキハ85系より70mm高く、そのため連結部にはスロープが設置されました。車体色はアイボリーホワイトを基調に、マスタードイエローとソフトイエローの直線が入り、窓周りはダークブラウンとなっています。

内装

客室内は「飛騨の大自然」をイメージし、淡いベージュとブラウンを基調としたデザインです。照明は電球色蛍光灯による間接照明で、天井中央部に面照明システムが導入されました。通路の扉には飛騨の杉林がエッチングで表現されています。座席はリクライニングシートで、シートピッチは1,000mm。モケットはベージュ、グリーン、ブラウンのチェック模様。窓のカーテンには、新素材の熱反射形スパッタミラーカーテンが採用されました。トイレ・洗面所、LED式案内表示装置は1000系「パノラマSuper」と共通設計です。

主要機器

キハ8500系は、JR東海区間の走行が長いため、キハ85系と同等の走行機器を採用しています。エンジンはカミンズ製NTA-855-R1形を各車両に2基搭載。変速機は3段6要素・直結2段式の液体変速機C-DW14形を採用。これにより、最高速度は120km/h、20‰勾配での均衡速度は100km/hを実現しました。台車は日本車輌製造のボルスタレス空気ばね台車ND-719形で、キハ85系のC-DT57形台車に準じた設計です。ブレーキは名鉄初の電気指令式で、増圧ブレーキ、機関ブレーキ、耐雪ブレーキが装備されています。

形式

運用時は3両編成が基本で、以下の5両が存在します。

キハ8501: 豊橋側先頭車（Mc'1）。トイレ・洗面所付きで、キハ85系との併結に対応。
キハ8502: 高山側先頭車（Mc'1）。構造はキハ8501と同一で、キハ85系との併結に対応。
キハ8503: 豊橋側先頭車（Mc1）。トイレ・洗面所付き。増結用のためキハ85系との併結対策は未施工。
キハ8504: 高山側先頭車（Mc2）。車内販売準備室、自動販売機、公衆電話付き。増結用のためキハ85系との併結対策は未施工。
* キハ8555: 唯一の中間車（M）。車内販売準備室、自動販売機、公衆電話付き。

運用・沿革

名古屋鉄道時代

1991年3月16日のダイヤ改正で営業運転を開始。多客期にはJR東海の特急「ひだ」との連結も行われました。神宮前駅、新名古屋駅の構造上、運用時には始発前に回送し、給油・時間調整を行ってから運用に入っていました。同年5月からは、高加速性能を生かし、平日朝ラッシュ時や夜間の特急にも運用されました。しかし、2000年代に入ると高速バスの運行開始や利用者の減少により、「北アルプス」の存在意義は薄れ、2001年9月30日限りで廃止されました。

会津鉄道時代

「北アルプス」の廃止後、会津鉄道が観光列車としての活用を検討し、全5両が譲渡されました。会津鉄道では、名鉄時代の形式番号と塗装をそのままに、「AIZUマウントエクスプレス」として2002年3月23日から運行を開始。当初は快速と普通列車に運用され、後にJR磐越西線や東武鬼怒川線への乗り入れも開始されました。しかし、高速運転向けに設計された性能が会津鉄道の路線条件に合わず、変速機油温度の問題やゴム部品の劣化が早期に進行。2010年5月30日に営業運転を終了しました。その後、一部車両は売却のために公募されました。

その後の動向

キハ8501とキハ8504は那珂川清流鉄道保存会で保存されています。キハ8502とキハ8503は、一時的に福島県会津若松市の観光施設で公開された後、マレーシアのサバ州立鉄道に譲渡されました。2016年から「Kelas Pertama」として、急行列車として運行を開始し、現在もその活躍を続けています。

まとめ

名鉄キハ8500系は、その誕生から現在まで、様々な場所で活躍してきた波乱万丈な車両です。名鉄時代は特急「北アルプス」として、会津鉄道時代は「AIZUマウントエクスプレス」として、そしてマレーシアでは急行列車として、その姿を変えながらも、多くの人々に愛されてきました。その歴史は、鉄道車両の多様な可能性を示唆するものであり、後世に語り継がれるべき物語と言えるでしょう。

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