周文

周文（しゅうぶん）

周文（生没年不詳）は、室町時代中期に活躍した禅僧であり、著名な画僧です。字は周文、道号は天章、画号は越渓と称しました。俗姓は藤倉氏で、相国寺において如拙に画を学び、雪舟等楊など、後の時代に活躍する多くの画家を育てました。画僧としての名声が高い一方で、仏像制作にも関わり、雲居寺の大仏（阿弥陀三尊）・仁王像の造立にも携わったことが知られています。

略歴

周文は相国寺において、都管（つかん、つうす）という役職にありました。都管は、寺院内の庶務や会計を司る役職であり、周文は財政面を担当すると同時に、画家として足利将軍家の御用を務め、俸禄を得ていました。1423年（応永30年）には、大蔵経を招来するための朝鮮派遣使節に随行し、その地で山水画を描きました。1430年（永享2年）には、大和国片岡の達磨寺にある達磨大師座像に彩色を施し、1440年（永享12年）には、雲居寺の仏像の像容を検討するため、奈良東大寺に赴くなど、幅広い活動が記録されています。1454年（享徳3年）頃までは生存していたと考えられています。周文の没後、将軍家の御用絵師としての役割は、小栗宗湛に引き継がれました。岳翁蔵丘や天游松渓、雪舟等楊といった優れた弟子を育成し、室町時代の水墨画確立に大きく貢献しました。

周文様式

周文の作品には、本来、款記（署名）がなく、印章なども後から押された可能性が高いため、周文自身が実際に描いた作品を特定することは困難であり、画風の実態については不明な点が多いのが現状です。そのため、伝称作品の中から、周文が活躍したとされる応永中期以降から寛正年間までの約40年間に制作された可能性が高く、当時の周文の名声にふさわしい名作を「伝周文」作品として扱っています。しかし、真筆の可能性が最も高いとされる代表作「水色巒光図」と「竹斎読書図」を比較しても、筆致には明らかな差異が見られます。

共通する作品の特徴としては、縦長の画面構成を用いた高遠（こうえん）の強調、馬遠や夏珪といった南宋の画家に倣った対角線構図の多用、そして力強い描線などが挙げられます。周文様式と呼ばれるこれらの画風は、実際の風景を写生するのではなく、記憶の中にある風景や、宋元画など先行する作品の要素を抽出し、再構成したものでした。そのため、写実性には欠けますが、中国絵画を基にしながらも、特定の中国絵画に類似することなく、周文様式という独自のスタイルを確立した点に、周文の独創性があります。

伝周文作品

以下は伝周文作品の代表例です。

国宝
水色巒光図（奈良国立博物館）
竹斎読書図（東京国立博物館）
重要文化財
四季山水図屏風（東京国立博物館）
四季山水図屏風（前田育徳会）
四季山水図屏風（真宗大谷派名古屋別院）
四季山水図屏風（大和文華館）
四季山水図屏風（静嘉堂文庫）
その他
三益斎図 （静嘉堂文庫）
蜀山図 （静嘉堂文庫）
聴松軒図 （静嘉堂文庫）
万里橋図 （静嘉堂文庫）
江天遠意図 （根津美術館）
山水図 （東京国立博物館）
寒山拾得図 （東京国立博物館）
陶淵明賞菊図 （梅澤記念館）
陶弘景聴松図 （山梨県立博物館）
湛碧斎図 （香雪美術館）
墨菊図 （遍照光院）
舟行送別図 （京都国立博物館）
帰郷省親図 （常盤山文庫）
江山夕陽図 （個人蔵）
春秋山水図 （クリーブランド美術館）
蘇東坡図 （メトロポリタン美術館）

参考文献

金澤弘 『日本の美術334 水墨画 如拙・周文・宗湛』 至文堂、1994年 ISBN 978-4-784-33334-9
松下隆章 『日本美術絵画全集 第2巻 如拙・周文』 集英社、1979年（普及版:1981年）
* 松下隆章 『日本の美術13 水墨画』 至文堂、1967年

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