四輔 (官職)

四輔（しほ）とは

四輔とは、古代中国において王や皇帝を補佐する役割を担った四つの官職の総称です。その起源は伝説にまで遡り、時代とともに変遷を遂げました。本稿では、四輔の歴史的変遷と、それぞれの時代における役割について解説します。

伝説上の四輔

『礼記』の「文王世子」篇には、世子（君主の跡継ぎ）を教育する役目として太傅・少傅・師・保が挙げられています。さらに、虞・夏・商（殷）・周の時代には、師・保・疑・丞という官職が存在し、これらを四輔と呼んだと記されています。ただし、四輔と並び称される三公との関係においては、師と保が重複しているという矛盾も指摘されています。

孔子は、幼い成王を補佐した周公旦の政治を理想としましたが、儒教の経典においては、太傅・太師・太保を三公とする説が一般的であり、四輔に関する記述は多くありません。前漢後期の政治家である谷永は、成帝に対し、四輔の官によって周の成王の統治が安定したと進言しましたが、唐代の顔師古は、この四輔を左輔、右弼、前疑、後丞の四つであると注釈しています。

前漢末期の四輔

前漢末期の元始元年（西暦1年）、太皇太后であった王政君が、幼い平帝の後見として四輔を任命しました。具体的には、太傅であった孔光を新設の太師に転任させ、後任の太傅に王莽、新設の太保に王舜、新設の少傅に甄邯を任じ、これらを四輔としました。官位の序列は、太師、太傅、太保、少傅の順であり、孔光は太師に昇進したことで臣下の最高位となりました。しかし、王莽は同時に安漢公という抜きん出た爵位を受けたため、孔光よりも上位に立つこととなりました。

当時、三公は大司徒・大司馬・大司空の三つの官職で構成されていましたが、これは太傅・太師・太保を三公とする古文学とは異なる今文学の系統に属していました。前漢末から後漢にかけては、古文・今文ともに有力であり、今文学の三公がそのまま三公となり、古文学の三公が四輔として制度化されたと考えられます。

四輔は三公よりも上位に位置づけられましたが、王莽は成立当初から大司馬として兵権を掌握しており、四輔と三公を兼ねる安漢公太傅大司馬として、皇帝の代行者としての地位を高めていきました。

新の四輔

王莽が皇帝として新を建国すると、始建国元年（9年）に制度を改め、四輔を太師・太傅・国師・国将としました。三公の上に立つ最高位である点は変わりませんでした。

後漢は新を滅ぼした後、四輔を廃止し、三国時代にも四輔が置かれることはありませんでした。

南北朝時代・北周の四輔

南北朝時代の北周においては、大象元年（579年）に宣帝が新たに四輔官を設けました。具体的には、大前疑・大右弼・大左輔・大後丞の四つであり、それぞれ宇文盛・李穆・尉遅迥・楊堅が任じられました。

明の四輔

明の洪武帝は、洪武13年（1380年）に四輔官を設置し、儒者6人を任命しましたが、わずか2年後の洪武15年（1382年）に廃止しました。

このように、四輔は時代や王朝によってその役割や構成が異なり、常に重要な地位を占めていたわけではありませんが、君主を補佐する官職として、中国の政治史において一定の役割を果たしたと言えるでしょう。

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