土岐康行の乱

土岐康行の乱：室町幕府の権力強化と守護大名土岐氏の終焉

土岐康行の乱は、南北朝時代末期の康応元年（1389年）から明徳元年（1390年）にかけて発生した、美濃国守護大名・土岐康行が室町幕府によって討伐された事件です。美濃の乱、あるいは美濃土岐の乱とも呼ばれています。この事件は、室町幕府による守護大名支配の強化策と、土岐氏内部の対立という複雑な要因が絡み合い、幕府の政治史において重要な転換点となりました。

土岐氏の隆盛と衰退の始まり

土岐氏は美濃源氏を祖とする名門で、鎌倉時代には美濃国で大きな勢力を築き、室町幕府の有力な御家人となりました。南北朝時代には北朝方についた土岐頼貞は、足利尊氏を支援し、幕府の創設に貢献、その功績により美濃守護に任じられました。その後、その孫である頼康は美濃、尾張、伊勢の三カ国の守護職を兼ね、評定衆にも加わり、土岐氏の最盛期を築きました。しかし、頼康は三代将軍足利義満の時代には、管領細川頼之と対立し、無断で帰国したことで義満の怒りを買い、討伐令が出されたこともありました（のちに謝罪して許されています）。

衰退への序章：家督相続と義満の策略

康暦元年（1379年）の康暦の政変では、斯波義将と共に細川頼之の排斥に動いた頼康でしたが、嘉慶元年（1387年）に70歳で死去します。その養子である康行が土岐氏の惣領を継ぎましたが、この相続が乱の発端となります。康行は、従兄弟の詮直を尾張守護代、弟の満貞を京都代官に任じ、義満への接近を図りました。

しかし、将軍専制権力の確立を目指した義満は、地方の有力守護大名の勢力を弱体化させる政策を進めていました。嘉慶2年（1388年）、義満は康行に美濃国と伊勢国の守護職のみを認め、尾張国は満貞に与えました。野心的な満貞は尾張守護職を強く欲しており、度々義満に康行と詮直を讒言しました。義満は、この兄弟間の不和を利用して土岐氏の分裂を図ろうとしたのです。

乱の発端と幕府の介入

満貞の讒言により、尾張守護代の詮直は激怒、満貞が尾張国へ赴任しようとした際に黒田宿で合戦となり、満貞は敗走、京へ逃げ帰りました。満貞は康行と詮直の謀反を義満に訴え、義満はこれを好機と捉え、康応元年（1389年）4月、康行を謀反人として討伐を命じました。土岐氏一族の頼忠・頼益父子も征討軍に加わりました。

翌明徳元年（1390年）閏3月、康行は美濃国池田郡小島城で挙兵しますが、幕府軍に敗れ、乱は終結しました。

乱後の影響と土岐氏のその後

康行の美濃国・伊勢国の守護職は没収され、美濃国は戦功のあった土岐頼世、伊勢国は仁木満長に与えられました。義満は当初土岐氏の断絶を考えていたと伝えられていますが、雲渓支山のとりなしで思いとどまりました。

義満の有力守護大名弱体化政策は、その後も続けられ、明徳2年（1391年）の山名氏一族の征伐（明徳の乱）、応永6年（1399年）の大内義弘の滅亡（応永の乱）へと繋がっていきます。

美濃守護職は後に土岐頼益に譲られ、頼益の家系が土岐氏の惣領として美濃国を支配するようになりました。一方、康行は明徳2年（1391年）に許され、明徳の乱で戦功を挙げ、応永7年（1400年）には伊勢北半国守護に再任され、康行の家系は伊勢守護職を継承し、土岐世保家と呼ばれました。満貞は明徳の乱に参加するも、卑怯な振る舞いから明徳3年（1392年）に尾張守護職を解任され、尾張守護職は斯波氏が継承することになります。詮直は応永の乱で挙兵するも、美濃守護の土岐頼益に敗れています。

土岐康行の乱は、室町幕府による守護大名支配強化の過程における一つの重要な事件であり、室町時代中期以降の政治構造に大きな影響を与えました。また、土岐氏内部の対立と義満の策略が複雑に絡み合った結果、最終的には土岐氏の勢力衰退を招く結果となりました。

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