土曜日 (週刊紙)

『土曜日』は、1936年7月から1937年11月にかけて刊行された日本の隔週新聞です。タブロイド判、全6ページで、価格は一部3銭でした。表紙には「生活に対する勇気」「精神の明晰」「隔てなき友愛」のスローガンが掲げられ、洋画家の伊谷賢蔵や三雲祥之助らによる挿画、そして中井正一と能勢克男による散文詩風の巻頭言が添えられていました。

創刊の背景

『土曜日』は、滝川事件後、反ファシズム文化運動のメディアとして活動していた中井正一と久野収らが、フランス人民戦線の機関紙『Vendredi（金曜日）』に触発され、新聞の刊行を企画したことから始まりました。当初は、松竹下鴨撮影所の俳優・斎藤雷太郎が発行していたミニコミ紙『京都スタヂオ通信』の書き手不足を解消するために、中井らがこの新聞を引き継ぎ、隔週紙として新たに刊行することになりました。この際に、フランスの『金曜日』になぞらえ『土曜日』と命名されました。

1936年7月4日に創刊された『土曜日』は、『スタヂオ通信』の号数を引き継ぎ第12号としてスタートしました。創刊号には、「憩いと想いの午后」という標題、伊谷賢蔵による表紙絵、そして中井正一による巻頭言「花は鐵路の盛り土の上にも咲く」が掲載され、2,000部が刊行されました。編集委員は能勢克男と林要が務め、斎藤が事務局として経営を担当しました。また、中井、新村猛、禰津正志、武谷三男、辻部政太郎、清水光、市村恵吾ら『世界文化』の同人たちが執筆者として協力しました。その他にも、岡田正三、上野伊三郎、加納竜去、熊澤復六、栗本勤、住谷悦治、竹中一雄、谷口善太郎、長廣敏雄、西谷宗雄、梯秀明、堀内カツ子、真下信一、森本文雄、米田三治、和田洋一などが執筆し、第34号のアメリカ映画「失はれた地平線」特集号では、若き日の淀川長治も執筆に加わりました。

内容と販売戦略

内容は、政治欄、海外情報欄、文化欄、映画欄、ヴォーグ欄、漫才落語欄など多岐にわたりました。特に、中井正一（日本におけるカルチュラル・スタディーズの先駆者とされる）らの意向から、大衆文化に関する批評に多くの紙面が割かれていました。

『土曜日』の配布網は京都を中心に京阪神地域に限られていましたが、斎藤のアイデアで、当時としては画期的な販売方法として、新興喫茶に販売を委託し、売上金の一部を喫茶店に支払うという方法を採用しました。これにより、売り上げを伸ばし、最大8,000部、平均でも4,000部まで刊行数を増やすことができました。遠隔地からの郵便切手による購読申し込みも増え、経営は黒字化しました。フランソア喫茶室、築地などの喫茶店や、よーじや化粧品店、藤井大丸百貨店などが広告を掲載していました。

終刊

中井と能勢は、将来的には全紙面を投書で埋め、編集委員が編集のみを担当する文化新聞にしたいという構想を持っていました。実際に、紙面の過半数が投書で構成されるようになりました。しかし、『土曜日』および『世界文化』は創刊当初から京都府警察特高課の監視対象となっていました。府警特高課は、『土曜日』をコミンテルンの人民戦線戦術につながる運動と見なし、1937年11月8日に斎藤、中井、新村、真下、谷口を治安維持法違反容疑で検挙しました。これにより、『土曜日』は第44号をもって廃刊を余儀なくされました。翌1938年にかけて関係者全員が検挙され（京都人民戦線事件）、関係者は半年から2年にわたり拘置・収監されることとなりました。

『土曜日』は、その短い期間の中で、大衆文化への着目、斬新な販売戦略、そして読者参加型の紙面作りなど、様々な点で注目すべき新聞でした。その終刊は、当時の社会情勢の厳しさを物語る出来事と言えるでしょう。

参考文献・注

『世界文化』
反ファシズム（世界）、ファシズム批判（日本）

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