土浦市立土浦幼稚園

茨城県土浦市に位置する土浦市立土浦幼稚園は、地元では「土幼（どよう）」の愛称で親しまれている公立幼稚園です。この幼稚園は、茨城県内で最も古い歴史を持ち、明治時代の早い時期に創立された公立幼稚園としては、現在まで続いている数少ない例の一つです。

その歩みは、日本における近代的な幼児教育の始まりと重なります。日本で最初の幼稚園が東京に開園した明治9年（1876年）から間もない明治18年（1885年）10月17日、土浦西小学校（現在の土浦小学校）の附属として開園しました。開園に先立つ9月15日には仮開園が行われ、6名の園児が入園しています。正式な開園式には約90名が出席し、賑やかに行われた記録が残っています。

開園の背景には、当時、まだ学齢に満たない子どもを小学校に入学させる風潮があったことに対し、文部省が明治17年（1884年）に幼稚園設置基準を緩和して幼児教育の普及を奨励したことが挙げられます。また、土浦西小学校長の坂本祐一郎氏が幼稚園教育の重要性を深く認識し、東京女子師範学校附属幼稚園を視察するなど熱心な準備を進めた結果でもあります。地元有志からの寄付金と県からの補助金によって資金を調達し、県令の認可を得て開園に漕ぎつけました。開園当時は日本全国でも幼稚園は30園程度しかなく、そのほとんどが東京や大阪に集中していた中で、茨城県では土浦幼稚園が最初の設置となりました。当時の『教育時論』には、土浦における教育への高い意識と開園に向けた努力を称賛する記述が見られます。

開園当初、保育料は6銭で、園児は28名でした。保母としては、小学校助手を兼務していた塚本こう氏が中心となり、豊田芙雄氏に幼児教育を学んだ塚本氏は茨城県で初めての保母となった人物です。他に東京女子師範学校の卒業生2名が保母として、また設立のアドバイザーとしても関わりました。教育内容は小学校に準じる形で行われ、始業午前9時、終業午後3時頃、小学校との合同行事や長期休暇もあり、都市部の幼稚園と比較すると「庶民的」な側面があったとされています。しかし、実際の通園者は商人や医師、官僚など、社会的に有力な層の子どもが中心であり、文部省が想定した「子どもの養育に余裕がない親」のためというよりは、早期教育を目的とする傾向が強かったようです。

明治20年（1887年）には園児が60名に増加したため、一室の増築が行われ、「土浦尋常小学校附属幼稚園」と改称しました。この頃の記録からは、各家庭の資産に応じた入園料の等級制があったことや、当時の入退園記録、教育に用いられた「恩物（おんぶつ）」などの備品の一部が現在も残されており、貴重な資料となっています。教育内容は修身話や積み木、書き方など26科目に及んでいました。全国的には幼稚園の存続を巡る議論があった時期にも、土浦ではそうした動きは見られなかったことが特筆されます。これは、当時の土浦の人々が幼稚園を寺子屋に近い感覚で捉えていた可能性や、舟運で栄えた経済的なゆとり、そして江戸・東京の生活文化を取り入れようとする強い意欲があったことなどが背景にあると分析されています。明治44年（1911年）4月には、小学校校舎新築に合わせて新しい園舎が建てられました。

大正時代から昭和初期にかけては、土浦幼稚園の経営は安定期に入ります。この時期、園長の発案による大型積み木が開発されてフレーベル館から販売されたり、マリア・モンテッソーリの教具を購入したりするなど、教材研究にも積極的でした。また、フレーベルの肖像画もこの時期に購入されています。大正13年（1924年）に新築された園舎は、モンテッソーリが提唱した「子どもの家」を模範として設計されたもので、吉川コハル氏の提唱を受け、園庭を運動場ではなく庭園としたり、園児の活動を考慮した厚い床板を採用するなど、細部にこだわった設計がなされました。昭和2年（1927年）には、アメリカから友好の印として贈られた「青い目の人形」が土浦小学校経由で土浦幼稚園に飾られることとなりました。太平洋戦争中に敵国の人形として多くが処分された中で、土浦幼稚園に残るこの人形は非常に貴重な存在です。

昭和10年（1935年）6月には、それまで小学校附属だった土浦幼稚園が「土浦町立土浦幼稚園」として独立し、昭和15年（1940年）に現在の「土浦市立土浦幼稚園」に改称されました。第二次世界大戦中も大きな被害はなく、短期間の休園以外は保育が続けられました。終戦直後の昭和20年（1945年）9月には、軍国主義に関わる書物や物品の焼却処分が行われました。

戦後、昭和23年（1948年）4月には園児数が急増し、対応のために5学級を増やして午前・午後の2部授業を実施しました。この状況を受けて、昭和24年（1949年）には土浦第二幼稚園が創立され、後に独立しています。また、この年、PTAが「母の会」として設立されました。昭和36年（1961年）には学校給食が始まりました。昭和48年（1973年）にも再び園児数が増加し、大町分教場を設置しましたが、翌昭和49年（1974年）に大町分教場と公園分教場を廃止し、新たにいくぶん幼稚園が開園しています。昭和55年（1980年）には4代目となる新しい園舎が完成しました。その後、創立100周年（昭和60年）、120周年（平成17年）には記念式典が盛大に挙行されています。

平成21年度（2009年度）、土浦市の行財政改革の中で幼稚園の再配置が検討され、土浦幼稚園と約500メートル離れた近距離にあるいくぶん幼稚園との統合が提言されました。これは、少子化による園児数の減少傾向や両園が中心市街地に位置することを踏まえたものです。検討委員会からは、敷地面積が広いいくぶん幼稚園を活用しつつ、土浦幼稚園の長い歴史を考慮する意見が出されました。これを受けて、土浦市は平成24年（2012年）3月31日をもって、いくぶん幼稚園を廃園として土浦幼稚園に統合し、土浦幼稚園がいくぶん幼稚園の敷地へ移転する形での統合を決定しました。移転を前に、平成23年（2011年）夏には旧園舎の見学会に多くの卒園生が訪れ、別れを惜しみました。平成24年2月24日には園舎お別れコンサートも開催され、同年3月19日には17名の園児が統合前最後の卒園式を迎えました。そして平成24年4月1日、土浦幼稚園は創立以来親しんできた場所を離れ、現在の土浦市文京町にあるいくぶん幼稚園の敷地へ移転し、新たな歴史を刻んでいます。

現在の所在地は土浦市文京町9-6で、建物面積は1,125平方メートル、敷地面積は2,443平方メートルです。かつての旧園舎敷地は1,713平方メートルであり、市内の公立幼稚園としては最小でした。移転後の園庭は、つくばFCの指導を受けて芝生化が進められています。

これまでに土浦幼稚園を巣立った卒園生は約14,000人に上ります（平成24年時点）。中には親子三代、四代にわたって同じ幼稚園を卒園した家庭もあり、地域に深く根差していることが伺えます。著名な卒園生としては、ギタリストとして知られる「エレキの神様」寺内タケシ氏や、J-POPグループ「かぐら」のメンバーである飯嶋康平氏などがいます。

土浦幼稚園は、日本の近代幼児教育の黎明期から今日まで、土浦の街と共に歩んできた歴史の証人であり、地域の子どもたちの成長を見守り続けている大切な学び舎です。

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