坂本
八幡宮は、福岡県
太宰府市坂本に鎮座する神社で、登記上の
宗教法人名称は八幡神社です。この神社は、元号「
令和」のゆかりの地として、近年特に注目を集めています。
歴史
坂本
八幡宮の周辺は、奈良時代に
大宰府の長官であった
大伴旅人の邸宅があったとされる場所です。また、この地は謡曲や歌舞伎で有名な
苅萱伝説の舞台でもあり、その碑が建てられています。
神社の創建については、詳しい記録が残っておらず、天文・弘治年間に勧請されたと伝えられるのみです。
『圓満山四王寺縁起』によれば、
平安時代初期の
弘仁2年(
811年)、
四王寺山にあった「四王寺」の座主坊として、この地に「善正寺」という寺が建てられました。この寺は
天台宗に属し、九州の
天台宗寺院では
八幡宮を境内に祀ることが多かったため、「善正寺」にも
八幡宮が祀られたと考えられます。
しかし、「武藤
少弐氏系図」によると、
少弐氏の滅亡とともに「善正寺」は廃れてしまい、その後、境内にあった
八幡宮だけが村の鎮守として再興されたと推測されています。
明治5年(
1873年)には、近代
社格制度において村社に列せられました。
祭事
坂本
八幡宮では、年間を通して様々な祭事が行われています。近世には9月15日が例祭でしたが、
昭和20年(
1945年)には
9月30日となり、現在は
10月1日に行われています。また、この神社を
産土神とする坂本地区の3つの集落(坂本・関屋・洗出)で宮座が構成されていましたが、現在では坂本集落のみが宮座を維持しています。
宮司は
太宰府天満宮に勤務しているため、普段は常駐しておらず、祭事の際にのみ出勤します。
主な祭事は以下の通りです。
1月14日 - 御通夜: 氏子が神社に集まり参拝した後、小豆飯や吸い物などを会食します。準備は持ち回りで、当
番の家が食事や神饌を支度します。
4月末 - 春籠り(厄落とし): 氏子が料理を持ち寄り、五穀豊穣や悪疫退散を祈願した後、会食します。かつては、
厄年の男性が餅をまき、酒を振る舞う風習がありました。
7月5日・6日 - サナブリ籠り: 春籠りと同じように、神社で祈願(台風除けや稲の出穂祈願)をした後、料理を持ち寄り会食します。
7月14日 - 夏祭り(オヨド): 「ヨド」は「宵祭り」の意味です。
8月7日 - 七夕籠り: 祭事の内容は、サナブリ籠りと同じです。
10月1日 - 例祭(宮座行事): 坂本集落では、当日の朝に
注連縄を作り、当元(頭屋)の家に飾った後、神社の
鳥居に掛けます。神事の後、宮座の参加者は正装に着替え、当元の家で直会を行います。
11月28日 - 神戻し(カンモドシ): 男子小学生がたき火をしながら夜を明かし、
出雲大社から戻ってくる神を迎えます。
「令和」フィーバー
2019年(平成31年)
4月1日に新元号「
令和」が発表された際、その典拠となった『
万葉集』の歌会が、この地にかつてあった
大伴旅人の邸宅で開催されたという説が有力視されたことから、坂本
八幡宮は「
令和」ゆかりの地として注目を集めました。これにより、以前は1日20人程度だった参拝者が、発表直後には3000人に急増しました。
2019年10月29日には、境内に「
令和」の石碑が除幕され、同年12月には、この神社が2019ユーキャン新語・流行語大賞のトップ10に選出され、
宮司が受賞しました。このブームは、新型コロナウイルス感染症の流行が始まる
2020年まで続きました。
御朱印
参拝者の急増を受けて、
2019年5月1日午前0時から御朱印の授与が開始されました。
ゴールデンウィーク期間中ということもあり、長蛇の列ができましたが、対応に追われたため、一時中断されました。その後、全国的な要望を受けて、5月18日より再開されました。しかし、御朱印がフリマアプリに出品されるなど、問題も発生しました。
6月中旬には、プレハブの社務所が設けられました。
戦後間もない頃、坂本
八幡宮の周辺が、
大伴旅人の邸宅跡であるという説が広まりましたが、
昭和61年(
1986年)に
九州歴史資料館が行った発掘調査では、8世紀前半の建物遺構は発見されず、この説は否定されました。
現在では、坂本
八幡宮付近以外に、政庁東側の月山東地区
官衙跡や、政庁南側の条坊跡周辺(現・
榎社周辺)が、邸宅跡の候補地として挙げられています。
現地情報
所在地: 福岡県
太宰府市坂本
交通アクセス:
鉄道:
西日本鉄道(西鉄)天神大牟田線
都府楼前駅より徒歩約10分。この駅には「
令和の里」の副駅名が設定されています。
バス:
都府楼前駅から
まほろば号北谷回り・内山ゆき、若しくは
太宰府駅、
西鉄五条駅から
まほろば号都府楼前駅ゆきに乗車し「
大宰府政庁前」下車すぐ、または西鉄400系統「筑陽学園前」下車、北へ徒歩5分、または太宰府ライナーバス「旅人」で「
大宰府政庁前」下車すぐ
参考文献
大日本神祇会福岡県支部 編『福岡県神社誌』
太宰府市史編さん委員会編『
太宰府市史』民俗資料編
外部リンク
太宰府の氏神様(5)坂本八幡神社 | 太宰府の民俗【
太宰府市文化ふれあい館】