大伴旅人

大伴旅人（おおとものたびと）

大伴旅人（おおとものたびと）は、飛鳥時代末期から奈良時代にかけて活躍した公卿・歌人です。名は多比等、淡等とも記されます。大納言・大伴安麻呂の長男として生まれ、その生涯は政治と文化の両面で重要な足跡を残しました。

経歴

旅人は、和銅3年（710年）の元明天皇の朝賀において、左将軍として騎兵や隼人、蝦夷を率いて朱雀大路を行進しました。その後、順調に昇進を重ね、和銅4年（711年）には従四位下、和銅8年（715年）には従四位上・中務卿、養老2年（718年）には中納言、養老3年（719年）には正四位下と、元明朝から元正朝にかけて着実に官位を上げていきました。

養老4年（720年）には、隼人の反乱鎮圧のため征隼人持節大将軍に任命され、軍を率いて鎮圧に当たりました。一定の成果を上げたものの、藤原不比等の死去により京に戻ることとなります。その後も、養老5年（721年）に従三位、神亀元年（724年）に正三位と昇進を続けます。

神亀5年（728年）頃には大宰帥として大宰府に赴任しました。この赴任には、当時の政治状況から、左遷人事であったとする説と、外交・防衛上の手腕を期待された人事であったとする説があります。大宰府では、山上憶良らと交流し、筑紫歌壇を形成しました。赴任後まもなく妻を亡くし、その後には異母妹の坂上郎女が西下しています。

旅人の大宰帥時代については、史料が万葉集に限られているため、詳細な人物関係については推測の域を出ない部分が多いです。しかし、この時期に多くの優れた歌が詠まれたことは特筆に値します。

神亀6年（729年）には長屋王の変で長屋王が自殺、天平2年（730年）には多治比池守が亡くなり、旅人は太政官で臣下最高位となります。同年11月には大納言に任ぜられて帰京し、天平3年（731年）には従二位に昇進しますが、まもなく病を得て、同年7月25日に67歳で亡くなりました。

人物

旅人は、『万葉集』に78首もの和歌が収録されており、その多くは大宰帥任官以後のものです。特に、酒を愛し、その心情を詠んだ歌は有名で、13首もの酒を讃える歌があります。また、『新古今和歌集』以下の勅撰[[和歌集]]にも13首が収録されており、漢詩集『懐風藻』にも漢詩作品が採録されています。歌風は、大陸的な風雅心や老荘的な自由思想が特徴とされています。

和歌作品

代表的な和歌として、以下のものが挙げられます。

やすみししわご大君の食国（おすくに）は倭も此処も同じとぞ思ふ - 万葉集巻六・956：任地の大宰府で都を偲んだ歌。
わが苑に梅の花散る久方の天より雪の流れくるかも - 万葉集巻五・822：「梅花の宴」で詠まれた歌。
験（しるし）なきものを念（おも）はずは一坏（つき）の濁れる酒を飲むべくもあるらし - 万葉集巻三・338：雑歌。
昔見し象（きさ）の小河を今みればいよよ清けくなりにけるかも - 万葉集巻三・316：雑歌。
妹として　二人作りし　わが山斎（しま、庭のこと）は　小高く繁く　なりにけるかも - 万葉集巻三：奈良の都に戻り、九州赴任時に亡くした妻を偲んで詠んだ歌。

官歴

旅人の主な官歴は以下の通りです。

時期不詳：正五位上
和銅3年（710年） 正月1日：左将軍
和銅4年（711年） 4月7日：従四位下
和銅7年（714年） 11月26日：左将軍
和銅8年（715年） 正月10日：従四位上。5月22日：中務卿
養老2年（718年） 3月10日：中納言、中務卿如元
養老3年（719年） 正月13日：正四位下。9月8日：兼山背国摂官
時期不詳：検税使
養老4年（720年） 3月4日：兼征隼人持節大将軍
養老5年（721年） 正月5日：従三位。3月25日：給帯刀資人4人。12月8日：御陵造営司（元明上皇崩御）
神亀元年（724年） 2月4日：正三位、益封
神亀3年（726年） 日付不詳：知山城国事
神亀5年（728年）頃：大宰帥
天平2年（730年） 11月1日：大納言
天平3年（731年） 正月27日：従二位

系譜

父：大伴安麻呂
母：巨勢郎女 - 巨勢人の娘
妻：大伴郎女
妻：丹比郎女
男子：大伴家持（718?-785）
男子：大伴書持（?-746）
女子：留女之女郎 - 藤原継縄室

関連事項

二日市温泉：大宰府赴任時に妻を亡くし、この温泉で歌を詠んだ。
鞆の浦：大宰府離任時に立ち寄り、亡き妻を偲んで歌を詠んだ。
征隼人持節大将軍
検税使
薦神社：旅人が隼人の反乱を平定したことに関連する由緒がある。
三野石守：旅人の従者で歌人。
観光列車「旅人」・太宰府ライナーバス旅人：大伴旅人にちなんで命名された。
* 令和：「万葉集」の「梅花の宴」の序文から採用された元号。

もう一度検索