士壱

士壱（し いつ）

士壱（生没年不詳）は、後漢末期から三国時代にかけての中国、交州（現在のベトナム北部）で勢力を誇った豪族・士氏の一員です。父は日南太守を務めた士賜、兄に士燮、弟に士䵋・士武がおり、子には士匡がいます。また、士徽は甥にあたります。

生涯

当初、士壱は漢王朝において郡の督郵、すなわち行政官の監視役を務めていました。交州刺史であった丁宮が尚書に任命され、都の洛陽へ召還される際、士壱は盛大な送別会を催しました。この歓待に感激した丁宮は、「私が三公の地位に昇ることができたなら、君を中央に招聘しよう」と約束したとされています。

その後、丁宮が三公の一つである司徒に昇進すると、士壱は約束通り都へ呼び出されました。しかし、士壱が洛陽に到着したときには、丁宮は既に退官しており、後任の黄琬が士壱を重用し、士壱もまた黄琬のために尽力しました。

しかし、董卓が朝廷の実権を掌握すると状況は一変します。黄琬と対立していた董卓は士壱を快く思わず、昇進の機会を与えませんでした。董卓が長安へ遷都した後、士壱は官職を辞して故郷へ帰りました。

朱符が交州刺史として亡くなった後、嶺南社会の混乱を収拾するため、兄の士燮の働きかけにより、士壱を含む士氏一族は各地の太守に任命されました。このとき、士壱は合浦太守に任じられています。建安15年（210年）、士氏は交州に兵を派遣してきた孫権の支配を受け入れました。

黄武5年（226年）に兄の士燮が亡くなると、交州は呉の孫権によって、南海郡・蒼梧郡・鬱林郡・合浦郡を含む広州と、交阯郡・九真郡・日南郡を含む交州に分割されました。この分割によって、士氏一族は親呉派と反呉派に分かれることになり、士壱は親呉派の立場を取りました。

交州刺史の呂岱によって甥たちが処刑されると、現地の豪族であった桓氏が呂岱に対して反乱を起こしましたが、鎮圧されました。士壱は子らと共に官位を剥奪され庶民に落とされ、反乱から数年後に処刑されたと伝えられています。その後、広州はすぐに廃止され、交州に戻されました。

士壱の生涯は、後漢末期の混乱から三国時代にかけての激動の時代を、地方豪族として生きた人物の軌跡を示すものと言えるでしょう。中央政権の動向に翻弄されながらも、一族の繁栄と地域の安定のために奔走した彼の姿は、当時の社会情勢を色濃く反映しています。

参考文献

後藤均平『ベトナム救国抗争史』（新人物往来社, 1975年12月）
『三国志 正史』6巻（ちくま学芸文庫,　筑摩書房, 1993年5月）

外部リンク

* 三國志 巻49

もう一度検索