多徳島

多徳島（たとくしま）

多徳島は、三重県志摩市の英虞湾に浮かぶ島です。かつて御木本幸吉が真珠養殖場を開設し、世界で初めて真円真珠の養殖に成功した場所として知られています。最盛期には200人もの人々が暮らしていましたが、1990年代に無人島化しました。

地理

多徳島は、賢島の南西、横山島の西に位置する英虞湾に浮かんでいます。島の面積は40.222485ヘクタールで、英虞湾内で7番目の大きさです。島の住所は志摩市阿児町神明字カシコ743番地および743番地1で、賢島と同じ小字に属します。

島には、研究所跡の建物や水道管、井戸などが残っており、かつての賑わいを偲ばせます。また、海辺には御木本幸吉ゆかりの「パールエビス」と呼ばれるえびす像が海を見下ろすように立っています。島の周囲の海面は賢島港に含まれ、漁業権が設定されています。

現在、多徳島には定期航路はなく、上下水道も整備されていませんが、送電線が通っており、電気を利用することができます。島は伊勢志摩国立公園の第2種特別地域に指定されているため、建物の高さや樹木の伐採には制限があります。志摩市は、島が完全に自然に還らないよう草刈りなどの維持管理を行っています。

島名の由来

江戸時代の記録には「田どく山」と記され、明治時代には「田徳島」と表記されていました。1899年（明治32年）に、農商務大臣の曾禰荒助が島を視察した際、「多徳島」と表記を変更することを提案し、以降、多徳島が正式名称となりました。

歴史

近代まで

多徳島の東隣にある横山島では、縄文時代や弥生時代の土器、古墳時代の須恵器が大量に出土しており、多徳島でも遺跡が見つかる可能性があります。

1893年（明治26年）、御木本幸吉は本格的な真珠養殖事業を開始するため、当時の神明村から島を借り受け、養殖場を開設しました。御木本の家族や従業員が島に移り住み、1899年（明治32年）には農商務大臣の曾禰荒助が養殖場を視察に訪れ、島名を「多徳島」とすることを提案しました。

1900年（明治33年）には小松宮彰仁親王が来島し、その記念として「養真珠碑」が建立されました。1905年（明治38年）には、アコヤガイの中から5粒の真円真珠が発見され、真珠養殖技術が確立されました。最盛期の1908年（明治41年）には約200人が暮らし、御木本が初代局長を務めた多徳郵便局の金融部門の取引額は三重県で1番でした。

御木本は、アメリカの飛行家が近くに来るという情報を得ると、わずか4日で島に滑走路を建設し、飛行機を着陸させて住民に見せたという逸話も残っています。

1919年（大正8年）に御木本は養殖拠点を大崎半島に移しますが、1935年（昭和10年）頃まで多徳島での養殖を続けていました。1929年（昭和4年）に志摩電気鉄道（現・近鉄志摩線）が賢島まで開通すると、「真珠王」御木本に会うために、多くの実業家、学者、外交官、新聞記者らが島を訪れるようになりました。1933年（昭和8年）には御木本が綜合真珠研究所を島に開設しました。

現代

1951年（昭和26年）11月、昭和天皇が多徳島を訪れ、御木本と面会しました。1953年（昭和28年）9月、御木本は多徳島にあった自身の施設を全て水産庁に寄贈しました。1955年（昭和30年）5月17日、水産庁は寄贈された資産をもとに、国立真珠研究所の臨海実験室と海面試験地を多徳島に設置しました。研究所の本所は賢島にありましたが、実際の研究活動は多徳島で行われました。

御木本が整備した滑走路は研究員によってテニスコートに転用され、研究員の娯楽の場となりました。1959年（昭和34年）には島内にキャンプ場が設けられ、朝日新聞厚生文化事業団が主催するアサヒキャンプのキャンプ地「志摩キャンプ」として利用されるようになりました。このキャンプには、1989年（平成元年）の最終開催までに延べ10万人が参加しました。

1979年（昭和54年）に国立真珠研究所は養殖研究所に統合・改組され、1984年（昭和59年）に南勢庁舎が完成すると、多徳島の臨海実験所は撤収されました。また、志摩キャンプも1990年（平成2年）に滋賀県朽木村のアサヒキャンプに統合されました。

アサヒキャンプが閉鎖された1990年代以降、多徳島は無人島となり、島の所有者である志摩市は、利活用計画を検討してきました。2003年（平成15年）には、賢島の商店経営者らが多徳島と賢島の円山公園を観光資源として活用する計画を立てましたが、周辺海域の漁業権との関係で実現には至りませんでした。

2001年（平成13年）からは、アサヒキャンプに学生リーダーとして参加していた人々が毎年6月上旬に多徳島で同窓会を開くようになり、この動きを知った代々木[[高等学校]]の関係者が2007年（平成19年）に島内調査を実施しました。

2019年（令和元年）10月、志摩市は多徳島の利活用のためサウンディング型市場調査を実施し、ウェルネスツーリズムプログラム、空からのアクセスポイント、自然に関する研究施設、ワーケーションといった提案がありました。志摩市は、この調査を元に、今後の多徳島の利活用を検討していくと考えられます。

脚注

注釈

出典

参考文献

石田易司・小柳敬明・川井太加子・福山正和「限界集落の高齢者のいきがいと介護」『桃山学院大学総合研究所紀要』第39巻第1号、桃山学院大学、2013年8月、91-137頁
乾淳子「賢島ものがたり」『ぱるく伊勢志摩 2016年伊勢志摩国立公園指定70周年記念紙』第4号、伊勢文化舎、2015年12月17日、2-3頁
植本東彦「思い出の養殖研究所」『養殖研ニュース』第43号、水産庁養殖研究所、1999年10月31日、9-10頁
大和田紘一「養殖研究所で過ごした7年間」『養殖研ニュース』第43号、水産庁養殖研究所、1999年10月31日、33-37頁
高山活夫「国立真珠研究所の紹介」『水産増殖』第3巻第4号、日本水産増殖学会、1957年8月、18-22頁
「角川日本地名大辞典」編纂委員会 編 編『角川日本地名大辞典 24 三重県』角川書店、1983年6月8日、1643頁
菅田正昭 編 編『日本の島事典』三交社、1995年6月25日、495頁

外部リンク

『多徳島』 - コトバンク
* 多徳島 - 鳥羽デジタルアーカイブス

もう一度検索