多治比乙麻呂

多治比乙麻呂（たじひ の おとまろ）は、生没年不詳ながら、奈良時代にその名を残した貴族です。真人姓を名乗り、従五位下の位階にありました。多治比屋主の第二子として生まれた彼の生涯は、記録に残された事柄から垣間見ることができます。

乙麻呂が歴史に名を刻んだのは、称徳朝のことでした。天平神護元年（765年）正月、改元という新たな時代の幕開けとともに、日置蓑麻呂、多治比長野、中臣習宜山守、下道色夫多、弓削秋麻呂、弓削牛養らと共に、外従五位下から内位の従五位下へと昇叙されました。これは、彼に対する朝廷からの期待の表れと言えるでしょう。

同年10月、称徳天皇の紀伊行幸が行われた際、乙麻呂は御前次第司次官という重要な役目を担いました。この行幸は、天皇が紀伊国の地を訪れ、視察や儀式を行うもので、国家的な行事でした。乙麻呂は、その準備や進行を円滑に進めるため、長官である白壁王（のちの光仁天皇）を補佐しました。御後次第司長官は大中臣清麻呂、次官は藤原小黒麻呂がつとめ、錚々たるメンバーが名を連ねています。

また、乙麻呂は歌人としても才能を発揮し、『万葉集』には彼の歌一首が収録されています。

recorded.

この歌は、乙麻呂の豊かな感性と歌の才能を示すものであり、彼の文化的側面を伝えています。

乙麻呂の官歴は、『続日本紀』に記録されています。

時期不詳：外従五位下
天平神護元年（765年）正月7日：従五位下（内位）
同年10月2日：紀伊行幸御前御前次第司次官

これらの記録から、乙麻呂が着実に昇進し、重要な役職を任されていたことがわかります。彼は、政治的な手腕だけでなく、文化的な才能も持ち合わせていた人物だったと言えるでしょう。

多治比乙麻呂に関する研究は、まだ十分に進んでいるとは言えません。しかし、彼の足跡を辿ることは、奈良時代の貴族社会や文化、政治状況を理解する上で貴重な手がかりとなります。今後の研究によって、彼の生涯や業績がさらに明らかになることが期待されます。

参考文献
『続日本紀』4 新日本古典文学大系15 岩波書店、1995年
宇治谷孟『続日本紀 （中）』講談社学術文庫、1992年
『萬葉集』（三）完訳日本の古典4、小学館、1984年

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