多珂神社

多珂神社（たかじんじゃ）

福島県南相馬市原町区に鎮座する多珂神社は、古来より格式高い神社として崇敬を集めてきました。延喜式神名帳に記載された陸奥国行方郡八座のうち首座とされる「多珂神社」であり、全国に数ある多賀神社の中で唯一、名神大社の社格を有した論社として知られています。旧社格は県社でした。

祭神

主祭神は伊邪那伎命（いざなぎのみこと）をお祀りしています。相馬藩の郷土史書である『奥相志（おくそうし）』では、伊邪那伎命の荒魂とされる「多珂荒御魂命（たかあらみたまのみこと）」を祀ると記されています。神体は、古くから拝観が許されないため明らかではありません。「鷹の像」が神体ではないかという説も存在しますが、これは社伝にある「白符の鷹（しらふのたか）」の木像が神体であるとの誤解から生じたものとされています。

歴史

多珂神社の創建については、明確な記録は残されていませんが、景行天皇40年に東征のためこの地を訪れた日本武尊（やまとたけるのみこと）が、戦勝を祈願して神を祀ったことに始まると伝えられています。当初の鎮座地は、現在の社地の北西にある古内地区を流れる太田川沿いの「大明神河原」の南側丘陵地であったと伝承されています。しかし、仲哀天皇7年2月、激しい暴風雨によって社殿が流出し、太田川の岸辺に漂着しました。同年9月、現在の鎮座地である芦野平、通称「城ノ内」の地に遷座されたと伝えられています。

中世から近世にかけての記録も残されています。康暦2年（1380年）銘を持つ鰐口が現存し、本殿内陣に懸けられていると伝えられています。承応4年（1655年）から明暦元年（1655年）にかけては、社の修復が行われ、当時の相馬藩主・相馬忠胤（そうまただたね）が木材を寄進した記録があります。また、元禄年間には、相馬昌胤（そうままさたね）が城内に吉田神道の神殿を建立した際、縁あって多珂神社へ「白符の鷹」の木像を彫刻して奉納しました。この木像は現在も社宝として本殿内に安置されており、厨子に納められていると伝わります。社伝によれば、「白符の鷹」という名は、木像が一見普通の鷹の像に見えるものの、光の当たり具合で羽根の部分が白く輝いて見えることから名付けられたといいます。

歴代の相馬藩主からは篤い崇敬を受け、享保9年（1724年）には相馬昌胤が社領を寄進するなど、手厚い保護を受けました。明治維新後、近代社格制度においては明治6年（1873年）に郷社に指定され、昭和19年（1944年）には県社へと定められました。

多珂神社は古来より、延命長寿、願望成就、家内安全、安産成就、海上安全、大漁満足など幅広い御神徳があるとされます。特に、日本武尊による戦勝祈願を由来とする伝承から、近年では選挙における必勝祈願のために訪れる崇敬者も多いといわれます。

境内

境内の中心には、本殿、幣殿、拝殿が配されています。

本殿：一間社流造（いっけんしゃながれづくり）で、脇障子（わきしょうじ）と勾欄（こうらん）が設けられています。脇障子には見事な龍の彫刻が施されています。
幣殿：内部の格子天井には、動植物や人物などが鮮やかに描かれた彩色絵画が飾られています。正月三が日には、本殿の御扉前に護摩壇が設けられ、護摩祈祷が執り行われます。この護摩祈祷では、祈祷札や授与品などを直接護摩の炎にかざして祈願する独特の方法が採られています。
拝殿：内部には、日本の国生み神話を描いた「伊弉諾尊（いざなぎのみこと）と伊弉冉尊（いざなみのみこと）の絵馬」や、勇壮な「鷹」の絵画が奉納されています。また、明治38年（1905年）に日露戦争の旅順陥落を記念して奉納された「国家鎮護」の額も納められています。

その他、境内には七福神の石像や、本殿背後の神木の傍らに、神仏習合時代に置かれていたと思われる仏像などが見られます。

参道には美しい神池があり、その中央に浮かぶ小島には子牛田山津見神社（こごたやまつみじんじゃ）の小さな祠と金毘羅神社（こんぴらじんじゃ）の石碑が鎮座しています。第一鳥居は、JR常磐線の磐城太田駅（いわきおおたえき）の南東、線路沿いに建てられています。

摂末社

境内の東側には、以下の摂末社が鎮座しています。

八坂稲荷神社（やさかいなりじんじゃ）：多珂神社の旧本殿を転用した社殿の中に、八坂神社と稲荷神社が合祀されています。八坂神社は以前「牛頭天王社（ごずてんのうしゃ）」と呼ばれ、現在の鎮座地である城ノ内地区に祀られていました。『奥相志』には、八坂神社の神体は長さ7寸であったと記録されています。稲荷神社は、現在の社地から南東にあった御稲荷地区から八坂神社に合祀されたといわれます。
雷神社（いかづちじんじゃ）：八坂稲荷神社の社殿東側に位置し、神体の長さは7寸と記録されています。
青麻大権現（あおそだいごんげん）石碑：こちらも八坂稲荷神社の社殿東側、御神木の杉の木とともに鎮座しています。祭神は天照大御神（あまてらすおおみかみ）、月読神（つきよみのかみ）、天御中主神（あめのみなかぬしのかみ）であり、宮城県仙台市にある青麻神社から勧請されたものです。

多珂神社論社としての貴船神社

南相馬市小高区には、多珂神社のもう一つの論社とされる貴船神社（きふねじんじゃ）が鎮座しています。相馬小高神社（そうまおだかじんじゃ）の近くに位置し、祭神は高龗神（たかおかみのかみ）と闇龗神（くらおかみのかみ）です。

貴船神社の創建時期は不明ですが、元亨3年（1323年）以前から信仰されていたことがうかがえます。神体を収めた箱には、保延5年（1139年）に造営されたという銘文があったと『奥相志』に記されています。神体は「龍にまたがり白衣を着た像」であると伝えられています。文治5年（1189年）、相馬師常（そうまつね）が行方郡を領有すると、貴船神社を郡内の総社と定め、社殿を修飾するなど手厚く信仰しました。貴船神社は、主に雨乞い・雨止めの祈願や五穀豊穣、開運出世、武術の神として崇敬されました。

『奥相志』には、この貴船神社の境内に、かつて多珂神社の小祠があったとする記述も見られます。この多珂神社は、景行天皇の時代に勧請されたとされ、祭神は伊弉諾尊と高皇産霊尊（たかみむすびのかみ）の二座、相殿神として蚕養明神（こかいみょうじん）を祀っていたとされます。小高村の地主神であり、祠官家は元々「多珂玉（たかたま）」という姓であったが、多珂神社を憚って「高玉（たかたま）」と改めたと伝わります。小高郷の名も、鎮座する多珂神社を「御多珂（おたか）」と称したことに由来するという説も紹介されています。この小高邑の多珂神社は、貴船神社から十間ほどの「二本松」という場所にありましたが、元禄年間の洪水で流失し、その後農夫によって水中から拾い上げられ、貴船神社の境内に合祀されたと伝えられています。

文化12年（1815年）、相馬藩主・相馬益胤（そうまますたね）は、郡内の式内社を特定するよう調査を命じました。この際、祠官社家である高玉丹波（たかたまたんば）は、前述の小高邑に合祀された小祠こそが延喜式内名神大社である多珂神社であると藩に報告しました。しかし、『奥相志』の記者からは、文化12年の調査以前には小高邑の多珂神社は記録されていない点や、高玉氏の記録が比較的新しいことなどから、その説には多くの疑義があるとの指摘がなされています。現在、貴船神社の参道入口にある由緒書の石碑には、貴船神社の祭神に加えて、多珂神社が同床同座（同じ場所に一緒に祀られている）と記されています。

現地情報

多珂神社：福島県南相馬市原町区高城ノ内112
貴船神社：福島県南相馬市小高区仲町2-50

参考文献

多珂神社参拝のしおり（多珂神社社務所）
『奥相志（相馬市史4）』（相馬市、1969年）

外部リンク

* 多珂神社（國學院大學21世紀COEプログラム「神道・神社史料集成」）

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