吉田神道

吉田神道とは

吉田神道は、室町時代に吉田兼倶によって創始された神道の一派です。別名として、唯一神道、卜部神道、元本宗源神道、唯一宗源神道などとも呼ばれます。

概要

吉田神道は、吉田兼倶がほぼ単独で集成したと考えられています。本地垂迹説を否定し、神を唯一絶対の存在と捉える独自の神道観を提唱しました。この思想は、森羅万象を神の顕現と捉える汎神教的な世界観を構築し、中世神道思想の集大成として位置づけられています。

吉田神道では、神道を本迹縁起神道、社例伝記神道、両部習合神道、元本宗源神道の三つに分類し、このうち元本宗源神道を正統な神道としました。元本宗源神道は、「陰陽不測の元元」「一念未生の本本」「一気未分の元神」「和光同塵の神化」を明らかにするものであり、日本の開闢以来の唯一の神道であると主張しました。

吉田神道は、仏教、道教、儒教など多様な宗教の思想を取り入れつつ、独自の教義、経典、祭祀を持つ初めての神道説となり、神道史において重要な転換点となりました。

思想と儀礼

吉田神道は、仏教を「花実」、儒教を「枝葉」、神道を「根」と位置づける独自の解釈を行いました。また、顕露教と隠幽教という二つの教えを統合することを特徴とし、顕露教の教説は『古事記』『日本書紀』『先代旧事記』、隠幽教の教説は『天元神変神妙経』『地元神通神妙経』『人元神力神妙経』に基づくとしました。

三部神経の教説では、神道には「体」「相」「用」の三側面があるとし、「体」は「天元」「地元」「人元」、「相」は「天五行」「地五行」「人五行」、「用」は「天妙」「地妙」「人妙」にそれぞれ分類しました。これらの要素が、宇宙のあらゆる現象を司ると説きました。具体的には、天五行は五星を、地五行は五竜王を、人五行は五臓を司るとしました。そして、三妙はそれぞれ神変、神通、神力の三つの力を持ち、これら九つの作用が、自然現象や人間の活動を司るとされました。吉田神道は、森羅万象が神の現れであるとする汎神論的な思想を説き、天上、地上、人体それぞれに神が存在し、宇宙全体に神が遍満すると考えました。

儀礼においては、八角形の壇で火を焚く護摩行事を行い、「十八神道行事」「宗源神道行事」と並ぶ三壇行事を形成しました。これらの思想や儀礼は、仏教、道教、儒教、陰陽道、密教などの要素を取り入れて形成されました。

歴史

室町時代には、伊勢神道も反本地垂迹説を唱えていましたが、南朝と結びついたことで勢力を失いました。そのため、吉田神道が反本地垂迹説を継承することとなり、より強固なものへと発展しました。

吉田兼倶は、積極的に宣教活動を行い、朝廷や幕府に取り入ることで勢力を拡大しました。虚無太元尊神を祭神とする斎場所太元宮を建立し、神祇管領長上を称して地方の神社に神位を授ける権限を持つなど、吉田家を神道の家元的な立場に押し上げました。しかし、その過程で、『日本書紀』の講釈や、伊勢の神器が吉田山に降臨したという偽りなど、強引な手法を用いたため、神宮側から激しい反発も起こりました。

吉田神道は、神道を日本の宗教の根本としながらも、儒教、仏教、道教、陰陽道などの矛盾を巧妙に解釈・混用した、作為的な宗教とも指摘されています。しかし、その融合性に富むところから、近世に広く浸透しました。戦国末期には神龍院梵舜が著名です。

本来、神道は皇室が主家であり、白川家が実務担当でしたが、吉田家が大部分の権限を持つようになりました。江戸時代には、徳川幕府によって神道本所として全国の神社・神職を支配下に置きました。

その後、平田篤胤らの復古神道が隆盛し、明治の神仏分離により本地垂迹説は衰退しましたが、明治政府によって神祇官が復古され、吉田神道はかつての権勢を失いました。

脚注

参考文献

井上智勝『吉田神道の四百年 神と葵の近世史』講談社〈講談社選書メチエ〉、2013年。ISBN 978-4-06-258545-3。
出村勝明『吉田神道の基礎的研究』神道史学会〈神道史研究叢書〉、1997年。ISBN 4-653-03303-X。
『卜部神道（上下）』神道大系論説編8,9
『吉田叢書（1〜5編)』内外書籍他
『神道行法の本―日本の霊統を貫く神祇奉祭の秘事』学研〈BooksEsoterica〉、2005年。ISBN 4-05-603775-2。
全国歴史教育研究協議会『日本史B用語集―A併記』（改訂版）山川出版社、2009年。ISBN 978-4-634-01302-5。
日本史用語研究会『必携日本史用語』（四訂版）実教出版、2009年。ISBN 978-4-407-31659-9。

関連項目

三十番神
吉田神社
平野神社
吉田家
卜部氏
国之常立神
吉川[[神道]]

外部リンク

吉田文庫神道書目録 - 天理図書館
吉田神道関係近世文書 <貴2157> - 國學院図書館
吉田家文書 <吉1-127> - 國學院図書館
中臣祓記解梵舜筆 慶長12(1607)年写 (解説) - 國學院図書館

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