夜光雲

夜光雲（Noctilucent Clouds, NLC）

夜光雲は、地上約75〜85kmの中間圏界面付近に発生する特殊な雲で、地球上で最も高い場所にできる雲と言われています。主に夏に北半球または南半球の高緯度地域で観測され、極中間圏雲（Polar Mesospheric Clouds, PMC）とも呼ばれます。

観測

通常の雲が地上から約10kmまでの対流圏にできるのに対し、夜光雲は非常に高い場所に発生します。そのため、太陽が地平線の下に沈んだ後や日の出前に、太陽光が下から当たり、青白く輝いて見えるのです。高度15〜25kmにできる真珠母[[雲]]（極成層圏雲）とは、高度や色が異なりますが、地上からは区別が難しい場合もあります。

観測しやすい時間帯は日の出前や日没後です。これは、昼間は大気や水蒸気、エアロゾルが太陽光を散乱し、上空の雲が見えにくくなるためです。夜間は、雲を照らす光がないことに加え、地上の明かりも届かないため、観測が難しくなります。また、地上の雲が邪魔になることも多く、観測のチャンスは限られています。

発見と初期の研究

夜光雲が最初に発見されたのは1885年で、イギリスのRoberto Leslieによるものでした。この発見は、クラカタウ火山の噴火後、夕焼けが鮮明になった時期と重なり、火山との関連が指摘されました。初期の研究では、火山活動が雲の生成を促進する可能性が示唆されましたが、直接的な関係はないと考えられていました。しかし、後の研究で反証されています。

ドイツのOtto Jesseは、1887年に世界で初めて夜光雲の写真を撮影し、「夜に光る雲」を意味する"noctilucent cloud"という言葉を生み出しました。彼はクラカトア山噴火直後から夕焼けの撮影を続け、火山活動が原因ならば夜光雲も撮影できるはずだと主張しました。Jesseらは共同で観測撮影を行い、ベルリン天文台も参加しましたが、1896年にプロジェクトは中止されました。

その後の研究

Otto Jesseの死後、数十年間は観測が下火になりました。ヴェーゲナーが夜光雲は氷でできているという仮説を発表しましたが、大きな進展はありませんでした。1960年代に観測ロケットが打ち上げられるようになり、中間圏の低温が夜光雲の発生に関係していることが初めて明らかになりました。

1972年には、OGO-6が初めて宇宙から夜光雲を観測し、1981～1986年にはSMEが紫外分光計で地球の雲の分布を観測し、夜光雲を確認しました。2001年には、UARSに搭載されたHALOEが物理的な観測を行い、夜光雲の主成分が氷であることを確認。同年、スウェーデンのオーディン衛星がスペクトル分析を通じて、夜光雲の毎日の世界的な分布を明らかにしました。

近年の観測と研究

2002年には、ユタ州立大学のVincent Wickwar博士らが、中緯度地域での夜光雲の発生を初めて報告しました。2007年には、夜光雲の観測を主目的とする初の衛星AIMが打ち上げられ、夜光雲が対流圏の雲と同じような形状で、同じようなメカニズムで発生している可能性が示唆されました。2015年には、日本国内で初めて夜光雲が観測されました。

発生メカニズムと科学的性質

夜光雲は、夏半球の極上空で、中間圏の大気が断熱膨張によって冷却されることで発生します。この低温の空気に、冬半球からの高温の空気が衝突することで、雲ができやすくなります。主な構成物は氷であり、雲粒の大きさは40～100nmです。最近の研究では、氷晶の体積の約3％をナノレベルの流星煙粒子が占めていることが判明しました。

近年の二酸化炭素やメタンの増加により、対流圏の気温が上昇し、中間圏の気温が低下したことが、夜光雲の発生を促進していると考えられています。また、スペースシャトルからの排気に含まれる水蒸気も、一部の夜光雲の発生に関連している可能性があります。

夜光雲は、地球温暖化や宇宙開発といった、現代社会の活動と深く関わっている現象として、今後も注目されていくでしょう。

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