大田原氏

大田原氏の概要

大田原氏は、武家であり華族でもあった日本の氏族です。古くは「大俵氏」とも記されました。中世以来、下野国大田原を本拠地として勢力を持ち、江戸時代には大田原藩主家として存続し、明治維新後には華族の子爵家となりました。

出自

家伝によれば、大田原氏の祖は武蔵国阿保郷に住んでいた備前守忠清とされています。その子孫が下野国那須の大俵に移住し、「大俵」を名乗るようになったと伝えられています。14代目の資清の時代に「大田原」に改姓しました。

大田原氏は中世以来、那須氏の有力な武将団である那須七騎の一家として活躍しました。1543年には大田原資清が大田原城を築城しています。

1590年の小田原征伐の際、主家の那須家は豊臣秀吉に参陣しなかったため所領を没収されましたが、大田原城主の大田原晴清は参陣したため所領を安堵されました。その後、関ヶ原の戦いで東軍に属したことで徳川家康から加増を受け、小大名として江戸時代を通じて1万1417石の大田原藩主家として続きました。

戊辰戦争では官軍に属しましたが、会津藩兵によって城下を焼き払われる被害を受けました。戦後、官軍への貢献により賞典金5000両が下賜されました。明治維新後には華族の子爵に列せられました。

系譜に関する考察

『寛永諸家系図伝』や『寛政重修諸家譜』では、大田原家を含む4家（大田原家、大関家、中山家、青木家）は丹治氏流として記録されています。

『寛永諸家系図伝』には、「本は丹治氏、武州にあり。丹の黨と称す。時に平の姓となり又阿保（あぶ）と号す。上野國に住し後大田原にうつり居て、すなはち称号とす。今又丹治の姓となる。」と記されており、武蔵七党の丹党の一族で、武蔵国榛沢郡阿保郷を本拠とする阿保氏の流れを汲むとされています。しかし、実際には宣化天皇からの系図ではなく、大俵忠清が初祖として記録されています。

『寛政重修諸家譜』では、『寛永諸家系図伝』に掲載された家伝を記した後、按文で「寛永青木の系圖に、安保三郎大夫經房、其二男安保刑部丞實光、宇治川にをいて討死とみえたり。同族たるや否を詳らかにせず。」と指摘されており、大田原家が丹党阿保氏であることに疑義が呈されています。その上で、按文には「今の呈譜に、中將業平（在原氏。平城天皇の皇子阿部親王より出たり。）が後胤にして、其の先丹の黨に屬し、氏を丹治にあらため…」とあり、「在原業平の末裔である祖先が丹党に所属して丹治姓を名乗った」という経緯を補足しています。この按文によれば、大田原氏は「血統としては在原氏であるが丹党に所属したので丹治姓を称した」ということになります。


また、幕府に提出された系図では、在原業平から大田原庸清、光清までの系譜が記されていますが、『寛政重修諸家譜』では『寛永諸家系図伝』と同様に、大俵忠清以降から掲載されています。

歴史

『大田原家譜』によると、「大俵康清は那須氏に仕え、始めて那須に移り、金田村水口城に住し」とあり、室町時代初期には下野国那須の名族である那須氏に仕官したと考えられています。康清から数えて5代目の胤清までは水口城を本拠に勢力を拡大しましたが、胤清の子である大田原資清は奥州街道に面した蛇尾川西岸の高台の要衝に大田原城を築城し、本拠を移しました。大田原氏の勢力は資清の時代に飛躍的に拡大しました。

当時、那須氏は上下に分裂しており、資清は上那須家の那須資親に仕えました。資親は長らく実子に恵まれなかったため、結城政朝の次男である那須資永を養子に迎えていました。しかし、後に実子の那須資久が生まれると、胤清・資清親子は資久の擁立を画策しました。1514年に資親と資永の関係が悪化すると、資親の命と称して大関氏、伊王野氏、金丸氏、蘆野氏などの那須党の有力諸氏を味方に引き入れ、資永が籠る福原城を攻め滅ぼしました。しかし、その際に資永の謀略によって資久が連れ去られ惨殺されたため、資親の死後、那須氏は下那須家によって統一されることになりました。

1518年、那須七騎の大関宗増と福原資安に讒言された資清は窮地に追い込まれ、両家を攻略しましたが敗北し、一時越前国に身を寄せました。しかし、しばらくして旧領を奪還し、その後娘を那須政資に嫁がせて勢力を回復しました。大関増次を討ち取り、長男の高増を養子として大関氏の名跡を継がせ大関高増とし、福原氏にも政資の命と称して次男の資孝を養子に入れて福原資孝とし、両家を傘下に収めることに成功しました。

その後、那須家の家督が政資から那須高資に継承されると、高資は大田原氏の影響力を排除する動きを見せましたが、1549年に起こった喜連川五月女坂の戦いでは、大田原氏、大関氏、福原氏を始めとする那須七騎の諸氏が参陣し勝利を収めました。

1551年、宇都宮氏の重臣である芳賀高定の策略に乗った千本資俊によって高資が千本城で謀殺されると、資清は姉の子である那須資胤を那須家の当主に据え、実権を握りました。1560年に資清が亡くなると、今度は資胤が大関高増、福原資孝、大田原綱清などの大田原一族の影響力を排除しようと画策したため、三家は佐竹氏と連合してこれに対抗し、数度の合戦に及びました。しかし、周辺諸国からの介入が懸念されたため、興野氏や伊王野氏の家臣である稲沢氏などが会談を持ち、資胤と三家を説得して和平に至りました。これにより家臣団の結束力が高まり、資胤の子である那須資晴の時代には、那須氏は安定期を迎えることとなりました。三家はその後、千本氏を滅ぼすなどして勢力拡大に邁進しました。

1590年に豊臣秀吉による後北条氏討伐（小田原征伐）が起こると、綱清の子である大田原晴清はいち早く豊臣秀吉に恭順を誓いました。しかし、那須氏は去就を明らかにせず小田原に参陣しなかったため、戦後改易に処され、那須氏の所領はそのまま大田原氏に継承されました。しかし、晴清の嘆願により、資晴には旧領から5千石が与えられ、家名の存続が許されました。

1600年の関ヶ原の戦いでは東軍に属し、上杉景勝の所領の様子を諜報し、徳川家康に報告しました。同年6月には、石川重次、内藤忠清らを奉行とした歩卒1000人余りを大田原城に迎え、陸奥国境の城郭修造の任にあたりました。さらに同月、援軍として皆川隆庸、服部正成らが大田原城に入り、長筒の大砲10門が配備されました。7月24日には大関資増、伊王野資信らと共に下野国小山に参じ、家康に謁見しました。景勝が南進する際には大田原城に籠城するよう申し付けられ、家康からは正恒の太刀と黄金100両を、徳川秀忠からは金熨斗付きの長船師光の刀を与えられました。8月25日には家康から書状で景勝の動向について報告するよう命じられました。

関ヶ原の戦いが終わると、功績により下野国森田に800石を加増され7900石となりました。また、1601年7月に服部正成が大田原城を去る際には、対上杉用の備えとして持ち込まれた徳川軍の大砲10門のうち3門がそのまま大田原城に与えられました。1602年7月には、関ヶ原で西軍に属して改易された相馬義胤の居城である相馬中村城の守備にあたりました。その功績により、同年12月25日に下野国芳賀郡、那須郡および陸奥国磐城郡に4500石が加増され、都合1万2400石を領する大名となり、大田原藩を立藩しました。その後、江戸時代を通じて一度も領地替えの憂き目に遭うことなく明治維新を迎えました。

戊辰戦争の際には官軍に属し、会津藩兵によって城下を焼き払われる被害を受けましたが、戦後、官軍への貢献により賞典金5000両が下賜されました。最後の大田原藩主である大田原一清（勝清）は、1869年の版籍奉還で華族に列するとともに大田原藩知事に任じられ、1871年の廃藩置県まで藩知事を務めました。さらに、1884年に華族令が施行され、華族が五爵制になると、一清は旧小藩知事として子爵家に列せられました。その後、一清は貴族院の子爵議員に当選しました。昭和前期には、大田原子爵家の邸宅は東京市世田谷区成城町にありました。

大田原藩は「関東在国の外様城主大名」という極めて特殊な藩でしたが、これは関ヶ原の戦いの際に、大田原城が上杉家の南下を食い止める最前線として機能したことを家康が重視したためと考えられています。また、旧主である那須家、大田原家（森田大田原家1300石）、福原家、蘆野家は、名門家系を重んじる幕府によって那須衆と称され、交代寄合に列せられました。

参考文献

『寛永諸家系図伝』
『藩翰譜』
『寛政重修諸家譜』
『大田原家譜』
『大田原宗家家譜』/稲毛田大田原家 所蔵
『稲毛田大田原家家譜』/稲毛田大田原家 所蔵
「大田原景賢誌」『大田原叢書』第2編/人見伝蔵 著・発行/大正4年
太田亮 著「国立国会図書館デジタルコレクション 大田原　オホタハラ」、上田, 萬年、三上, 参次 監修 編『姓氏家系大辞典』 第1巻、姓氏家系大辞典刊行会、1934年、1210-1212頁。
『大田原市史』前編/大田原市編集委員会 編/大田原市/1975年
浅見雅男『華族誕生 名誉と体面の明治』リブロポート、1994年
新田完三『内閣文庫蔵諸侯年表』東京堂出版、1984年
小田部雄次『華族 近代日本貴族の虚像と実像』中央公論新社〈中公新書1836〉、2006年
* 華族大鑑刊行会『華族大鑑』日本図書センター〈日本人物誌叢書7〉、1990年

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