大野集落

大野集落の歴史と文化的景観

長崎市に位置する大野集落は、隠れキリシタンによって開かれた特異な歴史を持つ集落です。この地域は、西彼杵半島のほぼ中央、角力灘に面した場所にあり、大野岳の南西斜面に位置しています。

隠れキリシタンの歴史

大野のキリシタンの歴史は、1599年に平戸島の領主であった松浦氏の家臣、籠手田安一が追放され、その一族や家臣が大野に逃れてきたことに始まります。当時、西彼杵の大半を支配していた大村純忠がキリスト教を庇護していたため、多くの領民がキリシタンとなっていました。1612年に江戸幕府が禁教令を発布すると、大村藩はキリシタンの摘発を始めましたが、大野周辺は佐賀藩の飛地であったため、追及の手が及びにくかったのです。さらに、リアス式海岸の地形が陸路での接近を困難にし、隠れキリシタンにとって絶好の潜伏場所となりました。

『大村藩史』によると、大野は1670年に開村し、当時147軒の家屋がありました。集落内には大野神社、門神社、辻神社の三つの神社がありましたが、これらはキリシタンの庄屋が神主を務め、外見は神社を装いながらも、キリスト教寺院として機能し続けたのです。特に門神社は、島原の乱を生き延びた本田敏光が祀られ、辻神社の背後にはキリシタン指導者の積石墓が残っています。

生業と復帰

集落の主な生業は、畑作、林業、漁業でした。『郷村記』や『見聞集』によると、農作物はサツマイモを中心に、麦、ソバ、大豆、野菜類が栽培されていました。1877年にド・ロ神父が外海に赴任すると、大野集落から約30戸がカトリックに復帰しました。ド・ロ神父は、出津教会堂の巡回教会として大野に教会堂を私費で建設しましたが、その際、集落の信者たちは資材運搬に協力しました。

世界遺産登録と文化的景観

大野教会堂は、もともと世界遺産登録の審査対象でしたが、「禁教期を重点にすべき」との指摘を受け、推薦が一旦取り下げられました。その後、2018年に「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」として世界遺産に登録された際、禁教期に隠れキリシタンが築いた大野集落が主体となり、教会堂は集落に包括される形となりました。文化庁は、世界遺産に求められる完全性として、重要文化的景観を適用することを決定。大野地区は、2018年に「長崎市外海の石積集落景観」に追加選定されました。また、集落全体が景観法の景観計画重点地区にも指定されています。

現在の集落

2010年時点で、上大野には46世帯88人、下大野には58世帯138人が暮らしています。海岸線は急峻な崖状で、家屋は斜面地形に沿って段丘状に配置され、段差毎に石積み（石垣）が構築されています。道路は舗装されていますが、路肩は石積みを活かしています。現在の周辺景観は、ゆうこうの果樹園が広がっており、集落内には大野岳への登山道となる九州自然歩道が通っています。

大野集落は、その歴史的背景と独特の地形が織りなす文化的景観が評価され、世界遺産に登録されています。隠れキリシタンの信仰を守り抜いた人々の歴史と、自然と共生する暮らしが今も息づいています。

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