大錦一徹

大錦一徹（おおにしきいってつ）

プロフィール

大錦一徹は、1953年 9月11日に新潟県佐渡郡羽茂町（現在の佐渡市）で生まれた元大相撲力士です。本名は尾堀盛夫。出羽海部屋に所属し、身長185cm、体重145kgという恵まれた体格を活かして、左四つ、寄り、下手投げを得意としていました。最高位は東小結（1973年11月場所）です。

来歴

中学時代、味噌製造会社の常務にスカウトされ、「好きなだけ食べられる」という言葉に惹かれて出羽海部屋に入門。1968年5月場所で14歳で初土俵を踏みました。

師匠である9代出羽海は稽古には厳しかったものの、一度教えたことは二度言わないという方針で、大錦は常に心構えを持って稽古に励みました。1973年5月場所には19歳で十両に昇進し、11勝4敗で十両優勝を果たします。その勢いのまま、わずか2場所で十両を通過し、同年9月場所に新入幕を果たしました。

新入幕と同時に、同部屋の大先輩である横綱・大錦と同じ四股名に改名したことからも、周囲からの期待の大きさが窺えます。非力ながらも、左前廻しを取り、右をおっつけて一気に出るか、左半身で取るという独特の取り口で、同部屋の先輩である出羽錦に似た相撲を展開しました。

新入幕の場所では、横綱・琴櫻や大関・貴ノ花を破るなど大活躍。新入幕力士による横綱戦勝利は、1941年5月場所の双見山以来、32年ぶりの快挙でした。千秋楽には異例の三役揃い踏みにも参加し、11勝4敗という好成績で、史上初の新入幕三賞独占受賞を成し遂げ、「佐渡の怪童」として注目を集めました。

翌11月場所には自己最高位の東小結に昇進しますが、壁にぶつかり、その後三役には返り咲くことはできませんでした。この頃、同世代の北の湖、若三杉、麒麟児、金城らとともに「花のニッパチ組」と呼ばれ、相撲界を盛り上げました。

糖尿病や膝の故障に苦しみ、一時は幕下まで陥落しましたが、持ち前の稽古熱心さと結婚を機に再起。1981年3月場所には7度目の入幕を果たしました。幕下陥落中には、前相撲から無敗であった板井に初めて土を付けるという快挙も成し遂げています。

その後、三役に復帰することは叶いませんでしたが、ベテラン力士として出羽海部屋を支え、横綱・大関戦に強く8個の金星を獲得。引退直前の1987年7月場所でも、横綱・双羽黒から金星を挙げています。得意の上手投げは威力があり、大関・琴風が陥落した原因は、大錦の上手投げで膝を故障したことがきっかけでした。

1988年1月場所限りで現役を引退。最高位は小結でしたが、現役時代は大器として期待され、1981年の座談会では「大錦さんだって土俵入りの稽古をしているんでしょう」と、その活躍を期待する声が聞かれました。

引退後は年寄・山科を襲名し、出羽海部屋付きの親方として後進の指導にあたりました。2003年からは協会在勤委員として、中学校の同級生でもある北の湖理事長の秘書室的な役割を担い、その後も武蔵川理事長の下で勤務。2010年2月には役員待遇に昇格しました。2017年1月には審判部副部長に配置転換され、小結での審判部副部長就任は初の事例となりました。2018年9月に停年退職し、角界を離れました。

エピソード

1982年9月場所では、対戦相手の休場による不戦勝を得た翌日に、自身も腰痛で休場し、史上初の「不戦勝の翌日が不戦敗」という珍しい記録を作りました。

また、小錦が幕内昇進した当時は、「大きな小錦と小さな大錦」と紹介されることがありましたが、実際には身長は大錦の方が2cm高かったというエピソードもあります。

幕内と十両を往復することが多く、入幕回数は12回を数え、大潮に次ぐ史上2位の記録を保持しています。

2017年11月場所では、立合い不成立を主張した横綱・白鵬に対し、厳重注意を行いました。審判長として、力士の物言いを認めない姿勢を示し、横綱の“抗議行動”を諌めました。

主な戦績

- 通算成績：750勝740敗28休勝率.503
- 幕内成績：348勝428敗19休勝率.448
- 現役在位：117場所
- 幕内在位：53場所
- 三役在位：1場所（小結1場所）
- 三賞：3回（敢闘賞1回、殊勲賞1回、技能賞1回）
- 金星：8個
- 各段優勝：十両優勝4回、幕下優勝1回、序二段優勝1回

改名歴

- 尾堀盛夫（おほりもりお）：1968年9月場所 - 1973年3月場所
- 尾堀充周（おほりみつひろ）：1973年5月場所
- 大錦充周（おおにしきみつひろ）：1973年7月場所 - 1977年7月場所
- 大錦一徹（おおにしきいってつ）：1977年9月場所 - 1988年1月場所

年寄変遷

- 山科盛夫（やましなもりお）：1988年1月 - 2018年9月

参考文献

- 『戦後新入幕力士物語第3巻』（佐竹義惇、ベースボール・マガジン社、1991年）
- ベースボールマガジン社『大相撲名門列伝シリーズ(1) 出羽海部屋・春日野部屋』(2017年、B・B・MOOK)