天野鉄夫

天野鉄夫（あまの てつお）

プロフィール

天野鉄夫は、1912年3月31日に沖縄県国頭郡大宜味村で生まれ、1985年7月24日に生涯を閉じました。農業技術者として、沖縄の戦前・戦後復興期において、植物研究、緑化運動、海外からの植物導入など、多岐にわたる分野で活躍しました。

生い立ちと学歴

天野鉄夫は、大宜味村で学校教師であり、後に村長も務めた金城鍜助の息子として生まれました。1927年に沖縄県立農林学校（現：沖縄県立北部農林高等学校）に入学しますが、病気療養のため一時休学。1931年に同校の林学科を卒業しました。

中国大陸での活動

1933年、農林省茶業試験場付属茶業講習所を卒業後、沖縄県国頭郡農会技手を務めます。1940年には満州に渡り、華北交通に入社。北京の農業試験場に勤務し、植物調査に従事しました。1944年、陸軍に現地招集され、終戦は北戴河の陸軍病院で迎えました。1946年に日本へ引き揚げ、一時東京に滞在した後、沖縄に戻りました。

琉球政府での活躍

帰郷後、池原貞雄の勧めで沖縄県立辺土名高等学校の生物教師となりますが、その後、沖縄民政府農務部に入り、技師として茶の栽培指導に従事しました。1952年に琉球政府が発足すると、経済局農産課長代理に就任。植物防疫、肥料検査、アメリカ人向け野菜栽培奨励、八重山移住農家指導、パイナップル栽培振興など、多岐にわたる業務を担当しました。

1957年には経済局林務課長となり、「全琉球緑化推進運動」を推進。日本本土やブラジル、ハワイなどから苗木や種子の寄付を集め、沖縄の緑化に貢献しました。1964年には経済局次長、翌年には経済局農林部長に就任。1964年には、ボリビア移民入植10周年記念式典に参加するため南米を訪問し、トックリキワタやジャカランダの種子を持ち帰りました。

1967年に琉球政府を辞職し、大衆金融公庫理事に就任。1972年の沖縄本土復帰に伴い、理事を辞任しました。

業績

沖縄の植物研究

天野鉄夫は、琉球大学の初島住彦教授と共に、自らが収集した植物標本を整理し、『沖縄植物目録』として出版しました。また、琉球王朝から沖縄戦までの植物研究史を調査し、『沖縄県史』に収録。さらに高良鉄夫との共著で『沖縄動植物研究史』を出版しました。

沖縄の貝類標本の収集

1954年から貝類標本の収集を始め、京都大学の黒田徳米に鑑定を依頼。その成果は『沖縄群島産貝類目録』として出版されました。

樹木の沖縄導入

ボリビアから持ち帰ったトックリキワタを自宅で栽培し、1970年に開花させました。このトックリキワタは、後に「南米ざくら」として沖縄各地で公園樹や街路樹として植えられ、親しまれています。天野が栽培したトックリキワタは「天野株」と名付けられ、沖縄都市モノレールおもろまち駅前に植えられています。また、ジャカランダも沖縄での開花に成功し、「紫雲木」と命名されました。

主な著書

単著

『沖縄動植物研究史』(1977年、新星図書出版)
『琉球列島植物方言集』(1979年、新星図書出版)
『粟国島植物目録』(1981年、粟国村教育委員会)
『図鑑琉球列島有用樹木誌』(1989年、沖縄出版)

共著

『沖縄植物目録』共著:初島住彦（1959年、沖縄生物教育研究会）
『沖縄動植物研究史』共著:高良鉄夫（1977年、沖縄動植物研究史刊行会）
『琉球植物目録』共著:初島住彦 (1977年、でいご出版)

参考文献

沖縄県立図書館 編『天野鉄夫文庫展展示目録』沖縄県立図書館、1987年。
天野鉄夫「私の半生と研究」『史料編集室紀要』第13巻、沖縄県立図書館史料編集室、1988年3月、2-26頁。
天野鉄夫『図鑑　琉球列島有用樹木誌』沖縄出版、1989年。

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