太上感応篇

太上感応篇（たいじょうかんのうへん）

『太上感応篇』は、南宋初期に成立した道教の経典であり、善行を勧め、悪行を戒めることを目的とした善書の代表的な書物として知られています。

成立

道蔵に収められている『太上感応篇』は30巻から構成され、李昌齢の伝と鄭清之の賛が加えられています。李昌齢については、『宋史』に記載されている北宋の人ではなく、李石とも呼ばれる南宋の人物であり、12世紀の紹興・乾道年間に活躍したとされています。また、鄭清之（1176-1251）は李昌齢よりも少し後の時代の人物です。

30巻のうち大部分は李昌齢の伝であり、本文はごく短いものです。『太上感応篇』の作者と正確な成立年は明確ではありません。『宋史』では李昌齢の作とされていますが、実際には李昌齢は注釈者であり、作者ではありません。研究によると、1164年に成立した李石の『楽善録』に『太上感応篇』の全文が引用されているため、それ以前に成立したと考えられています。

内容

『太上感応篇』は、全体で1274字からなる文章です。冒頭では、人の罪に応じて災いを与える「司過の神」の存在や、三台・北斗神君などが罪を記録し、三尸・竈神などが罪を報告する様子が記されています。その後、善行と悪行が列挙されていますが、悪行に関する記述の方が圧倒的に多くなっています。

内容的には、『抱朴子』の抜粋に近く、特に内篇の対俗・微旨の両編と深い関連性があるとされています。

影響

道蔵本の序文によると、『太上感応篇』は理宗が「諸悪莫作、衆善奉行」と題識を加えて出版されました。

『太上感応篇』は、善書の代表として広く普及し、図解入りのものも作成されるなど、民間の善書流通の基礎を築きました。清代中期には、『太上感応篇』、『陰隲文』、『覚世真経』を合わせて「三聖経」と呼び、まとめて扱われるようになりました。

一方で、茅盾の小説『子夜』では、『太上感応篇』が封建思想の象徴として用いられるなど、批判的な側面も指摘されています。

翻訳

『太上感応篇』は、1816年にアベル・レミュザによってフランス語に翻訳され、1891年にはジェームズ・レッグによって『東方聖典叢書』の一部として英語に翻訳されました。日本語訳（読み下し）は、小柳司気太・飯島忠夫の『道教聖典』（1923年）に収録されています。

参考文献

吉岡義豊「道教の研究」『吉岡義豊著作集』 1巻、五月書房、1989年、1-277頁。
酒井忠夫『中国善書の研究』弘文堂、1960年。

外部リンク

『太上感應篇--李昌齡』（漢籍リポジトリ）
『正統道藏本太上感應篇』（中國哲學書電子化計劃）
* 中国語版ウィキソース：太上感應篇

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