守屋山

守屋山（もりやさん）

長野県諏訪市と伊那市の境界にそびえる標高1,651mの守屋山は、古くから地域の人々に親しまれてきた山です。

名称の由来と別名

伝承によると、守屋山の旧名は「森山（もりやま）」とされていました。古文書には「守屋ヶ嶽」「守矢が岳」という名称も確認できます。また、諏訪地方の人々にとって、守屋山を含む伊那側の山並みは「西山」として親しまれています。

地理的な特徴

守屋山は、伊那山地の最北端に位置しています。山頂からは、南アルプス、中央アルプス、北アルプス、八ヶ岳連峰といった名だたる山々を一望できる絶景スポットです。また、清流として知られる沢川の水源でもあり、この水はもみじ湖（箕輪ダムの人造湖）を経て天竜川へと流れ込んでいます。

地質学的には、守屋山は緑色凝灰岩で形成されており、糸魚川静岡構造線と中央構造線が交わるという非常に重要な地点に位置しています。

東峰の山頂近くには石祠があり、古絵図には「守矢大臣宮」「守矢大神」の名で描かれています。この石祠は、現在では南麓にある守屋神社（伊那市高遠町藤澤区片倉）の奥宮とされています。

信仰の山

守屋山は、その名称から「モリヤ」という神（洩矢神あるいは物部守屋）が宿る山として、古くから信仰を集めてきました。

雨乞い信仰

守屋山の神が怒ると雨をもたらすと信じられており、過去には干ばつが続くと、雨乞いのために山頂の祠を谷底に突き落とすという習慣がありました。現在、祠が柵で囲われているのは、この行為を防ぐためです。

「おじり晴れ 守屋へ雲を 巻き上げて 百舌鳥きち鳴かば 鎌を研ぐべし」という諺が示すように、山頂に雲がかかると必ず雨が降ると信じられていたことから、諏訪盆地や伊那谷に住む人々は、古くから守屋山を気象の予知に利用していました。

磐座信仰

祠の右側にある岩も、磐座として信仰の対象とされてきました。かつては、守屋山の西側に住む人々が旧暦6月1日に登山し、祠を拝んだ後、磐座を7回回って諏訪上社へ参拝するという「御七堂」と呼ばれる行事が行われていました。磐座の表面には文字のようなものが刻まれており、これは祈雨や五穀豊穣を願うまじないの痕跡であると考えられています。

諏訪大社上社との関係

近年、守屋山は諏訪上社の神体山とされることもありますが、もともと諏訪明神（建御名方神）の神体は諏訪氏出身の大祝であり、守屋山を神体とした歴史的な記録はありません。山頂の石祠には御柱がなく、諏訪の方角に背を向けていることも、この説を裏付けています。

しかし、『諏訪信重解状』には、諏訪明神が守屋山の麓に降臨し、この地を治めていた守屋大臣（洩矢神）と覇権を争った後、上社を構えたという伝承が記されており、上社との関係を完全に否定することはできません。

天正10年（1582年）に織田信忠の軍勢が上社を焼き討ちした際には、神官たちが神輿を担ぎ出して守屋山へ避難したという記録も残っています。この出来事に関連する地名（御輿坂、権祝昼飯場など）が山中に残されています。

寛政12年（1800年）には、山中で白銅製の八稜鏡が発見され、天正の兵乱の際に紛失した宝物として上社に寄進されました。この鏡は現在、上社本宮の宝物殿に収蔵されています。

御柱祭で建て替えられる宝殿の網代天井には、山中の一角に生えている「穂無し萱」が古くから使われています。

守矢氏と物部氏の関係

諏訪上社の神長（かんのおさ）を務めた守矢氏の家伝によると、物部守屋の次男である武麿（弟君とも呼ばれる）が、丁未の乱の後に守屋山に逃れ、後に守矢氏の養子となり神長となったと伝えられています。また、守矢氏に養子入りしたとされる平忠度の子についても、同様の伝承が存在します。これらの伝承は、神長となる者が聖地とされた守屋山に籠っていたという通過儀礼を反映しているのではないかと考えられています。

物部守屋を祀る守屋神社がある伊那市片倉地区には、物部守屋の子孫を名乗る守屋姓の家が多く存在します。また、山中には鍛冶技術を持った物部氏に関係があると考えられる「鋳物師ヶ釜」という地名も残っています。

風の三郎信仰

諏訪上社一帯を描いた『天正の古図』には、東日本に知られる風神「風の三郎」を祀る「三郎宮」がかつて存在していたことが記されています。諏訪上社にはこの社に対する神事が確認されないため、この痕跡は民間信仰の名残であると考えられます。

製鉄には風が必要だったため、鋳物師ヶ釜にいた鍛冶屋や鋳物師が、風の神を祀ったことがそのルーツであると推測されています。

周辺の山々

守屋山の周辺には、入笠山、経ヶ岳、八ヶ岳などの山々がそびえています。

脚注

注釈

出典

関連図書

垣外富士男、津野祐次、中山秀幸『新・分県登山ガイド（改訂版） 15 長野県の山』山と渓谷社、2010年。
諏訪市史編纂委員会 編『諏訪市史 上巻 (原始・古代・中世)』 、諏訪市、1995年。
寺田鎮子、鷲尾徹太『諏訪明神―カミ信仰の原像』岩田書店、2010年。
徳久球雄、武内正、石井光造 編『三省堂 日本山名事典』三省堂、2004年。
日本山岳会『新日本山岳誌』ナカニシヤ出版、2005年。
日本山岳会東海支部『東海・北陸の200秀山 下（東海・信州編）』中日新聞社、2009年。
宮坂光昭『諏訪大社の御柱と年中行事』郷土出版社、1992年。
宮地直一 『諏訪史 第2巻 前編』信濃教育会諏訪部会、1931年。
山本ひろ子 編『諏訪学』国書刊行会、2018年。
『改訂新版 名古屋周辺の山』山と渓谷社、2010年。

関連項目

諏訪大社
杖突峠
物部守屋
洩矢神

外部リンク

* 守屋山｜信州山岳ガイド（信濃毎日新聞社）

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