物部氏

物部氏：古代日本の有力豪族

物部氏（もののべうじ）は、古代日本において強大な勢力を誇った氏族の一つです。その祖を饒速日命（にぎはやひのみこと）とする天神系の氏族であり、大和国山辺郡（現在の奈良県）や河内国渋川郡（現在の大阪府）を中心に勢力を拡大しました。物部氏は、軍事や祭祀において重要な役割を果たし、大王家（後の天皇）に仕え、大伴氏と並ぶ有力な軍事氏族として活躍しました。しかし、仏教の受容を巡っては蘇我氏と激しく対立し、その後の歴史に大きな影響を与えました。

物部氏の出自と発展

物部氏は、神武天皇よりも前に大和入りしたとされる饒速日命を祖とします。饒速日命は、登美夜毘売（とみやびめ）を妻とし、物部氏の初代とされる宇摩志麻遅命（うましまじのみこと、可美真手命とも）をもうけました。

当初、物部氏は鉄器や兵器の製造・管理を担っていましたが、次第に軍事氏族としての力を増していきました。雄略天皇の時代には大連（おおむらじ）を輩出し、各地に国造（くにのみやつこ）を置くなど、有力氏族としての地位を確立しました。

物部氏の職掌は多岐にわたり、屯倉（みやけ）の設置と管理、軍事と外交（特に朝鮮半島との関係）、医療と呪術、狩猟・飼育、食物供献儀礼、殯（もがり）儀礼などを担っていました。

仏教受容を巡る対立

仏教が伝来すると、物部氏は蘇我氏と激しく対立しました。物部尾輿（もののべのおこし）は、中臣鎌子（なかとみのかまこ）らと共に排仏派の中心人物となり、仏教の受容に反対しました。一方、蘇我稲目（そがのいなめ）は崇仏派の中心として仏教の受容を推進しました。

尾輿の死後、物部守屋（もののべのもりや）が排仏派を引き継ぎ、蘇我馬子（そがのうまこ）率いる崇仏派と対立しました。守屋は、仏像を破壊し、寺を焼き払い、仏教信者を迫害しました。しかし、この対立は、物部氏の没落を招くことになります。

丁未の乱と物部氏の没落

587年、用明天皇の崩御後、守屋は穴穂部皇子（あなほべのみこ）を天皇に擁立しようとしましたが、蘇我馬子によって阻止されました。馬子は炊屋姫（かしきやひめ、後の推古天皇）の命を得て、守屋の館を攻撃し、守屋は戦死しました（丁未の乱）。

この戦いによって、物部宗家は没落しましたが、物部氏自体が完全に滅亡したわけではありませんでした。推古天皇の時代には、物部依網抱（もののべのよさみのだき）が活躍するなど、物部氏の一族はその後も朝廷内で一定の地位を保ちました。

物部氏のその後

天武天皇の時代には、八色の姓（やくさのかばね）の制定により、物部氏は連（むらじ）から朝臣（あそん）へと改姓しました。また、物部氏の一族から石上氏（いそのかみうじ）が分かれ、本宗家の地位を得ました。

石上氏は、石上麻呂（いそのかみのまろ）が左大臣に任ぜられるなど、有力な貴族として繁栄しました。しかし、9世紀前半以降、中央貴族としては衰退しました。

物部氏の系譜は、『先代旧事本紀』などの史料に基づいていますが、詳細については不明な点も多くあります。物部氏は、地方にも広く分布しており、各地に物部氏を名乗る一族がいました。また、物部氏には「物部+地名」や「物部+職業」といった複姓を持つ一族もいました。

物部氏の地方分布

物部氏の分布は非常に広範囲に及び、東国、尾張、石見、備前など各地に物部氏の一族がいました。これらの地域では、物部氏の末裔とされる氏族や、物部氏ゆかりの神社などが存在します。

特に、下総国匝瑳郡（現在の千葉県）を拠点とした匝瑳物部氏は、坂東（関東地方）に進出し、勢力を拡大したと伝えられています。

石見国（現在の島根県）には、物部神社があり、この地を治めた物部氏の長は「石見国造」と呼ばれました。また、備前国（現在の岡山県）には、石上布都御魂神社があり、物部氏と深い関わりがあるとされています。

物部氏の史料と研究

物部氏の研究には、『先代旧事本紀』、『日本書紀』、『続日本紀』などの史料が用いられています。しかし、『先代旧事本紀』は偽書であるという指摘もあり、史料の解釈には注意が必要です。また、考古学的な発掘調査も、物部氏の研究に重要な情報を提供しています。

主な史料

『先代旧事本紀』
『日本書紀』
『続日本紀』
『和名類聚抄』
『公卿補任』

物部氏と関連する主な事項

石上布都魂神社
磐船神社
菟道稚郎子（母が物部氏との説がある）
宇治部
軍人勅諭

まとめ

物部氏は、古代日本の歴史において重要な役割を果たした氏族です。軍事や祭祀において活躍し、一時、大きな権力を握りましたが、仏教受容を巡る対立で没落しました。しかし、物部氏の一族はその後も各地で活躍し、その足跡は今もなお、各地に残されています。物部氏の研究は、古代日本の社会構造や文化を理解する上で欠かせないテーマの一つです。

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