安房国分寺

安房国分寺（あわこくぶんじ）は、千葉県館山市国分に位置する真言宗智山派の寺院です。山号を日色山と称し、本尊には薬師如来を祀っています。この寺院は、奈良時代に聖武天皇の詔によって日本各地に建立された国分寺のうち、安房国国分僧寺の後継寺院であると伝えられています。本稿では、現存する寺院と合わせて、古代寺院跡である安房国分寺跡（千葉県指定史跡・館山市指定史跡）や、安房国分尼寺跡に関する議論についても詳細に解説します。

概要

安房国分寺は、館山市街地から東方、海岸線から約3キロメートル内陸に入った、かつての砂丘上に位置しています。標高は約19メートルです。この場所は、安房国分僧寺を継承する寺院とされており、現在の境内は旧国分僧寺跡と重複しています。また、北方約900メートルには旧国分尼寺跡が存在すると推定されています。

しかし、安房国には特殊な成立事情があったため、他の国の国分寺とは異なり、国分寺建立の詔が出されてから遅れて創建されたと考えられています。旧国分寺跡の推定境内域は、1957年に館山市指定史跡となり、1992年には千葉県指定史跡に指定されました。1976年からは発掘調査が実施され、金堂と見られる基壇や、寺域を区画していた溝などが発見されています。なお、この国分寺が立地する砂丘地帯は、縄文時代から中世までの遺跡が分布する地域としても知られています。

歴史

創建

文献からは創建に関する詳しい記録は見つかっていませんが、出土した遺物から、奈良時代後半頃に創建されたと推定されています。一般的に、全国の国分寺は天平13年（741年）の国分寺建立の詔の頃に創建されたとされています。しかし、安房国は養老2年（718年）に上総国から分立して設置されたものの、天平13年12月に上総国に再併合され、天平勝宝9年（757年）5月に再び分立するという複雑な経緯を辿っています。そのため、安房国分寺は他国よりも遅れて創建されたと考えられています。

安房国と同様に、併合・分立を経験した能登国や和泉国では、それぞれ承和10年（843年）に定額寺大興寺が能登国分寺に、承和6年（839年）に和泉郡安楽寺が和泉国分寺に充てられました。安房国の場合、国分寺の設置に関する記録は見当たりませんが、能登国や和泉国と同様に、既存の定額寺が安房国分寺に充てられたという説も存在します。

現国分寺の寺伝では、詔以前の神亀4年（727年）に、国司に付き従って安房に下向した史生の鹿屋脛代が、行基作の薬師仏を本尊とする堂宇を建立したのが始まりだと伝えられています。しかし、現国分寺と旧国分寺の関係は不明確で、この伝承の真偽も定かではありません。

古代

『類聚三代格』には、仁和2年（886年）6月2日の太政官符に「彼国定国分寺、已置十僧」という記述があり、この頃までには安房国分寺が存在していたことが確認できます。これは、安房国分寺の存在を示す史料上の初見となります。

延長5年（927年）に成立した『延喜式』主税上の規定では、他の国とは異なり、安房国の国分寺料に関する記載はありません。この点について、上総国から充当されたとする説がありますが、詳しいことは分かっていません。

中世・近世

中世における安房国分寺の変遷は不明な点が多いです。旧国分寺との連続性も明らかではありませんが、応安2年（1369年）には安房国分寺の僧侶が大般若経の書写を行った記録が残っています。また、現国分寺の境内には、南北朝時代頃のものと見られる五輪塔が伝えられています。江戸時代の享保20年（1735年）には、本堂が再建されました。

近代以降

1932年と1934年には、平野元三郎と滝口宏によって境内調査が行われ、多くの瓦が発見されました。1957年12月16日には、「安房国分寺跡」として館山市指定史跡に指定され、1976年から1978年にかけて早稲田大学考古学研究室などによって第1次から第3次発掘調査が実施されました。これにより、金堂基壇や寺域を区画する溝などが発見されました。1992年2月28日には、「安房国分寺跡」が千葉県指定史跡に指定され、その後も数次の発掘調査が行われています。