完顔盈歌

盈歌（インコ）：金王朝成立前夜の重要人物

盈歌（インコ、1053年 - 1103年）は、11世紀後半から12世紀初頭にかけて活躍した女真族の首長であり、金の景祖烏古廼（ウクナイ）の末子にあたります。金の建国者である太祖阿骨打（アクダ）の叔父としても知られ、金王朝成立前夜の重要な役割を担いました。

史料における記述

漢民族の記録では揚割（ようかつ）、高麗人の記録では延蓋と記されており、当時の周辺諸国にもその名を知られていました。史書によれば、女真族の始祖である函普から景祖烏古廼までは父子相続が行われたとされています。しかし、東洋史学者の池内宏氏の研究によれば、始祖から昭祖までの五代の事績は、歴史的事実とは言い難いと指摘されています。

兄弟相続による首長権継承

『遼史』・『金史』によると、首長権は景祖烏古廼から次男の世祖劾里鉢（ヘリンボ）、四男の粛宗頗剌淑（ポラシェ）を経て、末子の盈歌へと引き継がれました。この間の相続は、父子間ではなく兄弟間で行われたことが特徴です。当時の女真族は、契丹族の遊牧民王朝である遼の支配下にあり、盈歌は遼から生女真節度使の職に任じられています。ちなみに、阿骨打は劾里鉢の次男です。

生涯と死後

盈歌は乾統3年（1103年）10月29日に51歳で没し、その後は甥の烏雅束（ウヤス）がその跡を継ぎました。金の第3代皇帝熙宗合剌（ホラ）は即位後、盈歌を孝平皇帝と追諡し、廟号を穆宗としました。皇統4年（1144年）には、埋葬地が献陵と改称され、章順孝平皇帝と増諡されています。

宗室

盈歌には多くの子女がおり、その中には魯王撻懶（昌）や周宋国王烏野（勗、字は勉道）などがいます。また、孫には斡帯（撻懶の子）、烏達補（撻懶の子）、広平郡王廝里忽（宗秀、烏野の子）がいます。

金王朝成立への貢献

盈歌は、阿骨打が金王朝を建国する以前の女真族を率い、その勢力拡大に貢献しました。兄弟相続という特異な形で首長権を引き継ぎながらも、遼との関係を維持し、女真族の基盤を固める役割を果たしました。彼の死後、甥である烏雅束、そして阿骨打へと首長権が引き継がれ、金王朝の成立へと繋がっていきます。盈歌は、金王朝の歴史において、決して忘れてはならない重要な人物と言えるでしょう。

参考資料

河内良弘「内陸アジア世界の展開I 2 金王朝の成立とその国家構造」『岩波講座 世界歴史9 中世3』岩波書店、1970年2月。
内藤湖南『中国近世史』岩波書店〈岩波文庫〉、2015年7月。ISBN 978-4-00-381171-9。

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