烏雅束

烏雅束（ウヤス）

烏雅束（ウヤス、1061年 - 1113年）は、女真族の完顔部を率いた10代目の首長であり、金の太祖阿骨打（アクダ）と太宗呉乞買（ウキマイ）の兄にあたります。廟号は康宗、字は毛路完。彼の時代は、後の金王朝建国に向けた重要な転換期でした。

生涯

烏雅束は、景祖烏古廼（ウクナイ）の孫、世祖劾里鉢（ヘリンボ）の子として生まれました。彼には、謀良虎（宗雄）・同喬茁・隈可という息子たちがいました。

1103年、叔父である穆宗盈歌（インコ）の死後、その跡を継いで完顔部の首長となりました。当時の女真族は、モンゴル系の遊牧民王朝である遼の支配下にありましたが、烏雅束は弟の阿骨打と共に、部族の勢力拡大に尽力します。彼らは生女真諸部を統合し、配下の石適歓を派遣して曷懶甸地方を制圧するなど、着実に勢力を拡大していきました。

高麗との間では7年にわたる戦争を繰り広げました。高麗側はこれを「尹瓘の北征」と呼んでいます。この戦いを通じて、完顔部の支配領域は拡大し、かつての渤海国に匹敵するほどになりました。

1113年、烏雅束は53歳で病没しました。彼の死後、弟のアクダが跡を継ぎ、ただちに都勃極烈（トボギレ）の地位に就いて完顔部の首長となります。アクダは遼からの節度使の職を受けましたが、やがて遼に対して反旗を翻し、1115年に女真族の国家である金を建国しました。

完顔部の勃興

『金史』によれば、女真完顔部の先祖は、朝鮮北部から移住してきた黒水靺鞨の一部族長であった函普であるとされています。しかし、池内宏の研究によれば、始祖から昭祖（石魯）に至る五代の事績は、歴史的事実とは認めがたいとされています。史書には、始祖以下、徳帝烏魯、安帝跋海、献祖綏可、昭祖石魯、景祖烏古廼まで父子相続がなされたと記されていますが、烏古廼の事績についても疑問視される点があります。ただし、この時代に生女真の完顔氏が按出虎水地方で指導的立場を確立したことは事実と考えられています。

その後、首長権は劾里鉢、頗剌淑（ポラシェ）、盈歌と引き継がれ、烏雅束の代でさらに勢力を拡大しました。遼は盈歌に生女真節度使の職を与えていましたが、これは完顔部を懐柔するためのものでした。

金建国への貢献

烏雅束の時代に、完顔部の支配領域は渤海国に匹敵するまで拡大しました。彼が築いた基盤の上に、弟のアクダが金国を建国し、華北を支配する大帝国へと発展させたのです。後世、烏雅束はその功績を称えられ、1144年に金朝の第3代皇帝である熙宗から献敏恭簡皇帝の諡号を贈られました。1145年には改めて喬陵に手厚く葬られました。

烏雅束は、金王朝の礎を築いた重要な人物であり、その功績は歴史に深く刻まれています。

参考文献

河内良弘「内陸アジア世界の展開I 2 金王朝の成立とその国家構造」『岩波講座 世界歴史9 中世3』岩波書店、1970年2月。
佐伯富 著「金国の侵入/宋の南渡」、宮崎市定 編『世界の歴史6 宋と元』中央公論社〈中公文庫〉、1975年1月。
内藤湖南『中国近世史』岩波書店〈岩波文庫〉、2015年7月。ISBN 978-4-00-381171-9。
三上次男・神田信夫 編『東北アジアの民族と歴史』山川出版社〈民族の世界史3〉、1989年9月。ISBN 4-634-44030-X。
* 河内良弘 著「第2部第I章2 契丹・女真」、三上・神田 編『東北アジアの民族と歴史』山川出版社〈民族の世界史3〉、1989年。

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