宗教的自由主義

宗教的自由主義とは

宗教的自由主義、あるいは宗教的リベラリズム（Religious liberalism）とは、信仰のあり方において、個人の自由や合理性を重視する思想やアプローチの一つです。これは、伝統的な教義や正統派の考え方、そして特に原理主義とは対照的な立場をとります。信教の自由、すなわち他宗教の信徒への寛容さと通じる側面もありますが、宗教的自由主義者全てが信教の自由に賛同しているわけではなく、またその逆も必ずしも成り立ちません。

概念の起源と発展

宗教的自由主義における「自由主義」の概念は、18世紀の啓蒙時代に発展した古典的自由主義にその源流を持ちます。古典的自由主義は、宗教的な側面と、今日一般に政治的自由主義として知られる側面を包含していますが、両者における「自由」の捉え方は必ずしも一致しません。宗教的自由主義と政治的自由主義の関連性に関する実証研究は試みられましたが、完全な結論には至っていません。

宗教哲学の文脈で「リベラリズム」という言葉が用いられるようになったのは、19世紀半ば以降のことで、20世紀前半にその概念が確立されました。例えば、哲学教授でディサイプルス派の指導者であったエドワード・スクリブナー・エーブズは、1936年に「宗教におけるリベラリズム」と題した論説を発表しています。

批判的な視点

宗教的自由主義は、現代的な信条を受け入れない宗教的伝統主義者だけでなく、世俗的な立場の人々からも批判されることがあります。彼らは、理性や批判的思考を宗教に取り入れようとする試みが、信仰本来の性質を損なう可能性があると見なします。

各宗教における展開

キリスト教

18世紀後半の啓蒙時代に出現した自由主義神学は、近代キリスト教神学の発展において重要な位置を占めます。これは西洋の多くの教派で主流となりましたが、同時にこれに反対するキリスト教根本主義（Fundamentalism）も生まれました。一方、啓蒙思想やモダニズム神学の流入が遅れた東方教会圏では、自由主義神学は大きな広がりを見せませんでした。

カトリック教会においては、宗教的自由主義を巡る論争が長年にわたり続いています。19世紀の穏健な改革派として知られるジョン・ヘンリー・ニューマン枢機卿は、信徒教育の重要性を説き、教皇不可謬説に疑問を呈する一方で、宗教的自由主義については相対主義を助長するものとして批判しました。聖公会の伝道者であるC.S.ルイスもまた、自由主義神学は本来のキリスト教とは根本的に異なり、「キリスト教の再発明」のようなものであると批判しています。

ユダヤ教

19世紀初頭以降、キリスト教自由主義神学の影響を受けたドイツ系ユダヤ人の宗教改革者たちは、ユダヤ教に批判的思考やヒューマニズムといった要素を取り入れ始めました。これにより、近代以降のユダヤ教は、穏健な保守派から急進的な改革派まで、非常に多様な改革分派を生み出すことになりました。正統派ユダヤ教の中にも、現代正統派のように、宗教的自由主義的あるいは世俗的な要素を多く取り込んでいる流れが見られます。

イスラーム教と東洋の宗教

西欧のキリスト教やユダヤ教は、18世紀以降、さらにはルネサンス期や宗教改革・反宗教改革期から、信徒の世俗化や現代化という課題に直面してきました。これに対し、イスラーム教や中東・東欧の伝統的なユダヤ教・キリスト教への啓蒙主義哲学の影響は比較的少なかったとされます。しかし、現代イスラーム教においては、Progressive British MuslimsやMuslims for Progressive Valuesといった団体が結成され、自由主義的な改革への取り組みが見られるようになっています。

東洋の宗教においても、宗教的自由主義の影響が現れるのはかなり後年になってからです。19世紀には、イギリス領インドでヒンドゥー改革運動が起こり、日本では明治維新をきっかけに仏教モダニズムが生まれました。この仏教モダニズムは、20世紀には禅の要素などを中心に海外にも広まりました。

「自由主義宗教」という呼称

「自由主義宗教（liberal religion）」という言葉は、主にユニテリアン主義者やユニテリアン・ユニヴァーサリストが、自らの信仰や立場を表現する際に好んで使用するものです。しかし、この概念やアプローチはユニテリアン主義に限ったものではなく、他の宗教や思想においても共有されうる要素を含んでいます。かつては、ユニテリアンやユニヴァーサリストの機関が協力して、『The Journal of Liberal Religion』という専門誌も出版されていました。

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