富士信仰

富士信仰とは、富士山そのものを神として、または神が宿る山として崇拝する、日本古来の山岳信仰です。富士山を信仰対象とする様々な形態があり、代表的なものとしては浅間信仰が挙げられます。

概要

富士信仰は、富士山を神と見なす、または崇拝対象とする信仰の総称です。浅間信仰（富士浅間信仰）はその中心であり、その他、村山修験や富士講といった形態も存在します。

富士信仰の歴史は、大きく分けて以下の時代に区分できます。

1. 原初的山岳信仰の時代: 富士山を山神として祀る社殿が営まれ始めた時代。
2. 霊山信仰の時代: 仏教が流入し、従来の神祀思想と習合。富士山登拝を目的とする山岳修行者（富士道者）が現れた時代。
3. 修験霊場の時代: 山岳修行者による組織体系化が進んだ時代。
4. 富士講・富士行人の時代: 一般庶民による富士山登拝が盛んになった時代。
5. 教派[[神道]]の時代: 幕末明治期以降の近代的な宗教組織が形成された時代。

浅間信仰

浅間信仰は、富士山の山神である浅間大神を祀る信仰です。富士山麓の各地に浅間神社が設立され、現在では全国に約1300社もの浅間神社が存在します。その総本宮は、富士山8合目以上を境内とする富士山本宮浅間大社（静岡県富士宮市）です。また、富士山本宮浅間大社の元宮とされる富士山本宮山宮浅間神社は、社殿を持たない珍しい形態の神社です。

浅間大神は、一般的に木花咲耶姫命と同一視されています。コノハナノサクヤビメは、火中出産にまつわる伝承から「火の神」とされることもありますが、富士山本宮浅間大社では「水の神」とされています。浅間神社の中には、コノハナノサクヤビメの父神である大山祇神や、姉神である磐長姫命を主祭神とする神社もあります。また、浅間造と呼ばれる特殊な社殿形式を持つ神社もあります。

富士山は、過去に何度も噴火を起こしており、その噴火を鎮めるため、火の神または水徳の神とされる木花咲耶姫が祀られるようになったという説があります。

浅間の語源

浅間神社の語源には、以下のような諸説があります。

「あさま」は火山を示す古語であるという説。
「浅間」は荒ぶる神、火の神であるという説。
「浅間」は阿蘇山を意味するという説。
「アサマ」はアイヌ語で「火を吹く燃える岩」または「沢の奥」を意味するという説。
東南アジアの言葉に由来するという説（例：マレー語の「アサ（煙）」と「マ（母）」）。
坂上田村麻呂が浅間神社を遷宮した際、朝熊神社を勧請したことに由来するという説。

歴史

富士信仰の成立

富士山周辺では、縄文時代後晩期の祭祀遺跡が複数発見されており、これらの遺跡が富士信仰の原型ではないかという意見があります。富士山が民衆の信仰を集めるようになった背景には、登山の大衆化があります。役行者による富士登山は、古い記録として知られています。また、末代上人は富士山頂に大日寺を建立し、「富士山開山の祖」とされています。末代上人は修験道を組織した人物とも考えられており、富士信仰の変遷に大きな影響を与えました。

平安時代には、富士山が霊場として認識されており、村山修験は民衆によるまとまった形の富士信仰の最も早い例とされています。

浅間大神の神階奉授

853年には浅間神が名神に列し、859年には正三位の位階を与えられました。これらの記録から、噴火活動を抑えるために、律令国家によって「浅間神」が祭祀されるようになったと考えられています。これが現在の富士山本宮浅間大社の起源であると考えられています。甲斐国側にも浅間神社が建立され、浅間信仰は徐々に拡大していきました。

「浅間神」「浅間大神」「浅間明神」など、呼び名には時代や記録により差異があります。

修験道との関係

富士山は、修験道の修行の場としても知られていました。

富士信仰に関わる神社

駒込富士神社: 最も古い富士講組織の1つがあり、町火消によって組織されました。「一富士、二鷹、三茄子」の初夢はこの神社に由来するという説がありますが、裏付ける資料は存在しません。

その他

富士信仰とは直接の関係はありませんが、日蓮宗富士門流も富士山に拠点を置いています。また、富士山は現在も宗教的な聖地とみなされることが多く、新宗教教団の中には活動拠点を置く団体も存在します。

富士信仰を題材とした文学作品

富士に死す（新田次郎）
小説咲夜姫（山口歌糸）

脚注

関連項目

富士講
浅間造
浅間山
徳川忠長
富士山-信仰の対象と芸術の源泉

外部リンク

* 版画「富士巡礼者」 - エミール・オルリック画（1909年）、大英博物館藏

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