富良野芦別道立自然公園

富良野芦別道立自然公園は、北海道の中央部、夕張市、芦別市、三笠市、富良野市、空知郡南富良野町にまたがる広大な自然公園です。この公園は、その特殊な地質構造とそれによって育まれた豊かな生態系が最大の特色となっています。

公園の中心的な山岳の一つである夕張岳周辺は、地球内部のマントル物質が変化してできた超塩基性岩である蛇紋岩が広く分布する、極めて珍しい地帯です。この特殊な土壌環境に適応した固有種の植物が数多く存在しており、特に「ユウバリ」の名を冠する高山植物はここでしか見られないものが多数あります。これらの固有種のほとんどは、環境省のレッドリストに記載されるなど絶滅の危機に瀕している貴重な種です。そのため、夕張岳は古くから「花の名山」として多くの人々に親しまれてきました。その価値は学術的にも高く評価されており、「夕張岳の高山植物群落及び蛇紋岩メランジュ帯」として国の天然記念物に指定されています。さらに、日本の多様な地質景観を代表するものとして「日本の地質百選」にも選定され、北海道内では初めて「日本山岳遺産」にも認定されるなど、その地質や植生の希少性と重要性が広く認められています。

公園の大部分は国有林で占められており、他の一般的な山岳地域とは異なる地質的な背景から、独特の植生が形成されています。温帯北部に属するこの地域の天然林は、標高によってその様相を変化させます。おおよそ標高800メートルから900メートルにかけては、エゾマツやトドマツといった針葉樹と、ミズナラなどの広葉樹が混じり合う混交林が広がり、比較的広葉樹の割合が多いのが特徴です。さらに標高が高くなり1,000メートルを超えると、森林限界が近づき、タカネナナカマドなどを交えながら、高山帯を代表するハイマツが現れ始めます。夕張岳では、固有種のユウバリコザクラやユウバリソウをはじめ、シソバキスミレといった多様な高山植物の可憐な姿を観察することができます。

公園の森林内には、エゾリスやシマリスといった身近な動物たちに加え、北海道の山岳地帯に特徴的なナキウサギ、そして大型のキツツキであるクマゲラなど、多様な野生動物が生息しており、豊かな生態系が維持されています。

一方、夕張山地の北西に位置する標高1,066メートルの崕山（きりぎしやま）も、この公園の重要なエリアです。崕山は、その山全体が石灰岩で構成されているという珍しい特徴を持っています。この石灰岩という特殊な土壌環境に適応した植物群落が見られ、特に希少なホテイアツモリソウなどが自生しています。しかしながら、過去に林道や国道が整備されて入山が容易になった時期に、登山客の増加に伴う植物の踏みつけや、営利目的での大量の盗掘が深刻な問題となりました。このため、貴重な植物群落を保護・回復させるため、1999年（平成11年）からは入山制限の措置が講じられています。現在では、年に3回ほどモニター登山が開催されており、参加者は植物群落の回復状況や自然環境を守るための取り組みを実際に見て学ぶ機会を得るとともに、入山制限の必要性や植物保護の重要性についての理解を深めています。

公園内には、自然景観を楽しめるスポットも点在しています。富良野市にある朝日ヶ丘総合公園や富良野スキー場、山部自然公園「太陽の里」など、レクリエーション施設も含まれています。また、芦別岳や夕張岳といった雄大な山岳、空知大滝や桂沢湖、シューパロ湖といった水辺の景観も公園の見どころとなっています。

富良野芦別道立自然公園は、その特異な地質と植生、豊かな生態系、そして貴重な自然環境の保護に向けた取り組みにおいて、北海道の自然の多様性と価値を象徴する場所と言えるでしょう。

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