寺崎乙治郎

寺崎乙治郎：ジャーナリズムと政治の二刀流を歩んだ地域社会の先駆者

寺崎乙治郎（てらさき おとじろう、1872年4月8日 - 1937年1月22日）は、明治から昭和初期にかけて活躍した日本のジャーナリストであり、政治家です。雅号を斗南（となん）と称し、この名でも多くの著作を残しました。静岡県出身で、地方紙「静岡新報」の主筆を務める傍ら、静岡市会議員、静岡県会議員、そして静岡県会議長を歴任するなど、地域社会の発展に大きく貢献しました。

ジャーナリストとしての足跡

寺崎は1901年に静岡新報社に入社し、以来、同紙で健筆を振るい続けました。静岡新報社は、1900年に合資会社となり、1927年には株式合資会社へと改組されました。寺崎は、同社の社長を務めた松浦五兵衛にその才能を見出され、重用されたと言われています。彼は「静岡新報」を、東海地方における有数の論壇へと押し上げ、その功績は「東海論壇の権威」とまで評されました。また、静岡新報社では、お伊勢参りの団体旅行事業や、こども新聞の創刊など、積極的な事業展開にも携わりました。当時の静岡新報は立憲政友会に近い立場を取っており、立憲民政党寄りの「民友新報」との間で激しい部数競争を繰り広げていました。寺崎は、その中で着実に同社の基盤を固め、発展の礎を築いた人物として知られています。1932年に静岡新報社の主筆を退任しています。

政治家としての活動

寺崎は、ジャーナリストとしての活動と並行して、政治家としても活躍しました。静岡市においては、名誉職参事会員として、市長や助役とともに行政に参画しました。静岡市会議員選挙では当選を果たし、立憲政友会の静岡支部では幹事や顧問を務め、幹部として要職を占めていました。しかし、のちに天野克己、野中兼らとともに静岡新政団を発足させると、団長として党内主流派と対立し、独自の道を歩むこととなります。1919年には静岡県会議員選挙で当選し、1923年と1927年にも再選を果たしました。静岡市での立憲政友会の支持率が低かったため、敢えて安倍郡選挙区から出馬したとされています。1929年には静岡県会議長に就任し、昭和天皇の巡幸の際には供奉の栄に浴しました。その後、選挙区割りの変更により、政界からの引退を決意。盟友である鈴木信雄を後継候補として擁立し、選挙運動を支援しましたが、静岡市選挙区では立憲民政党が勢力を占め、立憲政友会の基盤の弱さが露呈する結果となりました。国政にも複数回挑戦しており、1924年には政友本党から衆議院議員選挙に出馬しましたが、落選しています。また、1928年にも立憲政友会から出馬しましたが、こちらも落選に終わっています。1936年には、静岡市支部の主流派が松本君平を公認候補として推そうとした際、静岡新政団のメンバーが寺崎の擁立を主張しましたが、病気療養中であったため辞退しています。

図書館の充実と文化への貢献

言論人であった寺崎は、書籍の重要性を深く認識しており、図書館の充実を推進しました。静岡文化協会の創設にも尽力し、静岡県初の県立図書館である静岡県立葵文庫の創設にも大きく貢献しました。1934年には、蔵書2777冊を同文庫に寄贈し、これは「斗南文庫」として大切に保管されています。この功績により、亡くなった際には静岡県立葵文庫から花輪が贈られ、弔辞が披露されました。没後、その功績が認められ、褒状が遺族に伝達されています。

人物像と晩年

寺崎は、「百戦錬磨の古武士の威容」と評されるほどの風格を備えていたとされています。雅号である「斗南」を筆名として用いることも多く、多くの文章をこの名で残しています。多忙な日々の中でも読書を欠かさなかったと伝えられています。また、床次竹二郎の著書『政党の現在と将来』では、その発行者を務めています。晩年は目を患い視力を失い、1937年1月22日にこの世を去りました。

略歴

1872年 - 浜松県城東郡にて誕生。
1901年 - 静岡新報社入社。
1919年 - 静岡県会議員選挙当選。
1923年 - 静岡県会議員選挙当選。
1924年 - 第15回衆議院議員総選挙落選。
1927年 - 静岡県会議員選挙当選。
1928年 - 第16回衆議院議員総選挙落選。
1929年 - 静岡県会議長。
1937年 - 死去。

栄典

1937年 - 褒状。

著作

単著
寺崎乙治郎著『筆舌三十年――斗南文集』斗南文集刊行会、1933年。
寺崎斗南著『筆舌三十年――斗南文集』2版、斗南文集刊行会、1933年。
共著
寺崎乙治郎ほか著『小學教育懸賞論文集』金港堂書籍、1902年。
寄稿、分担執筆、発行、等
『大正畫鑑』1918年。
床次竹二郎著『政党の現在と将来――政党改造の重大時期』寺崎乙治郎、1926年。

関連人物

鈴木信雄
床次竹二郎
松浦五兵衛
松本君平

関連項目

静岡新聞
政友本党
立憲政友会
静岡県立中央図書館

外部リンク

* 寺崎 斗南 - Webcat Plus（Webcatには「斗南」名義で登録されている）

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