寺泊沖海戦

寺泊沖海戦（てらどまりおきかいせん）

寺泊沖海戦は、戊辰戦争中の1868年7月13日（慶応4年/明治元年5月24日）に、越後国寺泊（現在の新潟県長岡市の一部）海岸付近で発生した海戦です。この戦いは、新政府軍艦隊が旧幕府軍の輸送船「順動丸」を自沈に追い込んだもので、戊辰戦争中に越後方面で起きた唯一の海戦として知られています。

背景

戊辰戦争が勃発すると、新政府軍は東日本に向けて鎮圧軍を進撃させました。旧江戸幕府を支持する東日本の諸藩は、1868年6月に奥羽越列藩同盟を結成し、越後長岡藩などが同盟に参加。北陸道を東進してきた新政府軍と北越戦争と呼ばれる戦闘状態に入りました。越後方面には、幕府直轄の開港場であった新潟港があり、外国製兵器の輸入拠点として戦略的に重要な場所でした。

新政府軍を指揮する山県有朋は、長岡藩との戦端が開かれる3日前の1868年6月20日に、海軍部隊の日本海派遣を要請しました。これに応え、新政府軍上層部は長州藩軍艦「第一丁卯丸」と薩摩藩軍艦「乾行丸」の越後派遣を決定。2隻は福岡藩の輸送船「大鵬丸」と合流して石炭補給後、敦賀港を経由して越後へ向かいました。

一方、旧幕府軍側は、日本海方面に有力な海上戦力を配置していませんでした。榎本武揚率いる旧幕府海軍は優勢な艦艇を保有していましたが、江戸周辺に集結したままだったのです。輸送船「順動丸」だけが、会津藩へ貸与された兵器弾薬類を運搬するため箱館経由で越後入りしていました。「順動丸」は佐渡の相川港へ停泊中に奥羽越列藩同盟軍によって接収され、本海戦の発生時には寺泊港に停泊していました。越後では蒸気船燃料用の石炭の調達が困難だったため、「順動丸」は薪を代用燃料として使用しており、速力を発揮できない状態でした。寺泊の陸上には、佐藤織之進率いる会津藩兵や水戸諸生党が駐屯していました。

戦闘経過

7月10日、「第一丁卯丸」と「乾行丸」は新政府軍支配下の直江津港へ入港しました。翌7月11日、新政府軍艦隊は陸戦支援のため直江津を出撃し、7月13日に出雲崎へ寄港した際に、旧幕府軍艦が寺泊港へ停泊中との情報を得ました。そこで、新政府軍艦隊は寺泊の幕府艦に対する先制攻撃を決意しました。

7月13日午前7時頃、新政府軍艦隊は寺泊沖へ到達。「順動丸」は機関を始動して出港しましたが、新政府軍側の記録によれば逃走しようとしたものと思われます。しかし、味方艦隊と間違えて出迎えに向かったとの説もあります。港外で待ち構えた新政府軍艦隊は、「乾行丸」が「順動丸」の前方を遮る一方、「第一丁卯丸」は後方に回り込んで包囲を試み、大砲による威嚇射撃を行った上で砲撃戦を開始しました。砲弾は「順動丸」の船首や外輪に命中し、「順動丸」も大砲3発を「乾行丸」に応射しましたが、手前に外れてしまいました。

損傷した「順動丸」は反転し、海岸に自ら擱座しました。会津藩士の一柳幾馬・雑賀孫六郎ら乗員約150人は船体を放棄して上陸。乗員や陸上の駐屯部隊は、会津兵20人ほどを除いて弥彦へ向かって撤退しました。新政府軍艦隊は「順動丸」に接近して拿捕しようとしましたが、暗礁が多く危険なため断念しました。

新政府軍は陸路からも部隊を派遣して「順動丸」の拿捕を試み、「第一丁卯丸」が出雲崎へ戻って連絡し、加賀藩・高田藩・与板藩兵が出動しましたが、山中に避難していた住民を旧幕府側の伏兵と誤認して退却してしまいました。新政府軍艦隊は引き続き洋上に停泊して「順動丸」を監視し、敵陣を狙って艦砲射撃を実施しました。

翌7月14日昼頃、「乾行丸」乗員が寺泊へ上陸し、旧幕府側に協力した住民は処罰する旨の布告を掲示しました。同日午後2時頃、「順動丸」は搭載弾薬が爆発を起こして沈没。出火原因は不明ですが、鹵獲を免れるために自爆したと推定されています。7月15日に新政府軍艦隊は七尾港へ撤収しました。連日の作戦行動で燃料不足に陥っていましたが、柳河藩輸送船「千別丸」の七尾港到着により石炭の補給を受けることができました。

結果

この戦闘により、新政府軍は越後方面の制海権を掌握しました。新政府軍艦隊は1868年7月18日に佐渡奉行所のある相川へも進駐し、同地に停泊していた桑名藩の和船を拿捕して、積荷の大砲やミニエー銃を鹵獲しました。その後も新政府軍は「摂津丸」などの艦船を越後へ増派して艦砲射撃や上陸戦などの陸戦支援に活用し、9月15日に新潟港を占領しました。

旧幕府海軍主力は1868年10月初旬まで江戸周辺から動かず、奥羽越列藩同盟の支援要請を受けて仙台湾へ進出。庄内藩救援のため「千代田形」以下の小規模な艦隊を分遣しましたが間に合わず、日本海方面での戦闘にはほとんど寄与しないまま、箱館戦争へ向かいました。

史跡

旧寺泊町の興琳寺の山門には、新政府軍の艦砲射撃の跡が残っていましたが、後に焼失しました。砲弾は現存しています。「順動丸」の残骸の一部は引き上げられており、ドライブシャフトが長岡市指定文化財となっています。2010年には旧寺泊町役場荒町車庫に特設展示されました。

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