小田切謙明

小田切謙明：自由民権運動を牽引した山梨の名望家

小田切謙明（おたぎり けんめい）は、弘化3年12月1日（1847年1月17日）に甲斐国西山梨郡飯沼村（現在の山梨県甲府市新青沼）に生まれ、1893年（明治26年）4月9日に48歳で亡くなった、明治時代の自由民権運動家、そして山梨県における重要な名望家です。

生い立ちと初期の活動

小田切謙明は、代々村役人を務める家系に生まれました。明治5年には自らも戸長を務めています。1876年（明治9年）には、若尾逸平らと共に金融会社である補融社を設立し、地域経済の発展に貢献しました。

自由民権運動への参加

山梨県では、県令であった藤村紫朗への反発から自由民権運動が活発化しました。小田切謙明もこの運動に深く関わり、藤村県令を批判する論陣を張り、自ら観風新聞を創刊し、言論活動を通じて民権運動を牽引しました。

1884年（明治17年）には龍泉社を設立し、甲府市桜町（現在の丸の内一丁目）に海洲温泉を開業しました。この温泉は地域住民に広く利用され、彼の功績は生前から顕彰され、「海洲大権現」として祀られるほどでした。

国会開設運動と政治活動

1880年（明治13年）には、峡中新報社の社主である林誾とともに峡中同進会を設立し、依田孝、薬袋義一、加賀美平八郎、佐野広乃らと共に理事委員として活動しました。また、国会開設請願の代表の一人として佐野、薬袋らと共に上京し、国会期成同盟の結成にも加わりました。同年には、明治天皇の東山道巡幸を機に、武田信玄の霊社建設運動が起こり、小田切謙明は尾沢孝治、加賀美平八郎らと共に総代を務めました。

翌明治14年には県会議員に選出され、自由党員として活動しました。1891年（明治24年）には、渡辺信（青洲）、根津嘉一郎、佐竹作太郎ら地元の名望家と共に鉄道期成同盟会を結成し、中央線の敷設運動にも尽力しました。

衆議院議員選挙への挑戦と晩年

1890年（明治23年）の第1回衆議院議員総選挙に山梨県第一区から立候補しましたが、落選しました。1892年（明治25年）の第2回衆議院議員総選挙にも再挑戦しましたが、再び落選という結果に終わりました。この選挙では、対立候補との経済力の差を風刺した「浅尾人力、金丸馬車で、小田切ゃわらじで苦労する」という歌が流行したことでも知られています。

1893年（明治26年）4月9日、48歳で病没しました。墓所は甲府市朝日5丁目の日蓮宗寺院である清運寺にあります。亡くなる少し前には、灸の治療を受けた女性が、北辰一刀流・千葉桶町道場の娘で、坂本龍馬の婚約者（と本人は考えていた）である千葉さな子であったというエピソードも残っています。身寄りのなかったさな子を小田切夫妻は甲州に招き、手厚く保護しました。そのため、千葉さな子の墓も小田切と同じ清運寺にあります。

1936年（昭和11年）には、甲府城跡（舞鶴城公園）の鍛冶曲輪跡に頌徳碑が建立され、その功績が讃えられました。

甲州では、言葉遊びとして「小田切謙明　一生懸命」という決まり文句が長く伝えられ、彼の真摯な人柄と努力家としての姿勢が今もなお語り継がれています。

参考文献

『山梨県議会史』
『山梨県史』通史編5近現代1
村松志孝『小田切海洲先生略伝』海洲小田切謙明先生頌徳会、1936年
『郷土史にかがやく人々』青少年のための山梨県民会議、1974年
堀内万寿夫「研究ノート：小田切謙明一所懸命」『甲斐』No，124、2011年
司馬遼太郎『街道をゆく夜話』朝日文庫、2007年

関連項目

* 甲府温泉

もう一度検索