山下太郎 (アラビア石油)

山下太郎：波乱万丈の実業家人生

山下太郎（1889年 4月24日 - 1967年 6月9日）は、明治から昭和にかけて活躍した日本の実業家です。その卓越した行動力と先見性から、「満州太郎」「アラビア太郎」「山師太郎」など、様々な異名で呼ばれました。彼の生涯は、常に困難と挑戦に満ちていましたが、そのたびに不屈の精神で乗り越え、日本の経済発展に大きく貢献しました。

生い立ちと青年時代

山下太郎は、秋田県で生まれ、幼少期を祖母に育てられました。その後、東京の慶應義塾普通部を経て、北海道帝国大学農学部（現北海道大学）に進学しました。大学時代には、後に農学者となる田所哲太郎と親交を深め、卒業後は道産品改良やオブラートの特許取得に携わりました。この頃から、彼の起業家精神が芽生え始めていたと言えるでしょう。

山下商店の発展と試練

1914年、山下は白石元三郎の支援を受け、山元オブラート株式会社を設立しました。その後、鈴木菊次郎からオブラート製造の特許を取得し、事業を拡大しました。しかし、海外貿易への強い意欲から、権利を売却し、新たな挑戦を始めます。

第一次世界大戦中には、硫安の輸入で巨利を得る一方で、ロシア革命の混乱に巻き込まれ、鮭缶の買い占めに失敗するなど、数々の困難に見舞われます。また、国内の米騒動では、外米輸入を試みるも、密輸の疑いで妨害に遭いました。さらに、満鉄との契約破棄や連帯保証による大負債を抱え、破産寸前の状況に陥りました。

しかし、山下はここで諦めませんでした。満鉄の新体制発足に伴い、旧知の松岡洋右や永野護の協力を得て事業を再開。満鉄の社宅建設と管理を請け負い、「満州太郎」としてその名を轟かせました。これを機に、彼の事業は満州、中国、朝鮮、台湾へと拡大していきました。

戦後の石油開発とアラビア石油

第二次世界大戦後、山下は日本の復興には石油資源の確保が不可欠だと考え、石油獲得に奔走しました。1956年、日本輸出石油株式会社を設立し、翌年にはペルシャ湾海底油田の開発利権を獲得しました。1958年にはアラビア石油株式会社を創立し、日本のエネルギー自給率向上に貢献しました。アラビア石油は1960年、カフジ油田を発見し、世界にその名を知らしめました。石油メジャーに頼らない「日の丸油田」の発見は、世界中で大きなニュースとなり、山下は「アラビア太郎」と呼ばれるようになりました。

山下は、欧米諸国に石油を依存する日本の現状を憂い、政府や財界に働きかけました。サウジアラビアとクウェートからの採掘利権獲得は、彼の努力と人柄に加え、欧米へのアラブ民族の感情が背景にあったとも言われています。

その人柄と晩年

山下太郎は、数々の困難に屈せず、その卓越した実行力で事業を成功に導いた人物でした。また、楠木同族会の会長としても活動し、社会貢献にも尽力しました。晩年まで「俺はまだやることがある」と語り、その情熱は衰えることがありませんでした。

1967年、心筋梗塞のため78歳で亡くなりました。その功績を称え、死後、民間人としては異例の従三位勲一等瑞宝章が追贈されました。彼の故郷である横手市には、山下太郎顕彰育英会が設立され、現在も多くの学生を支援しています。

栄典と係累

山下太郎は、数々の勲章を受章しています。

1938年 - 紺綬褒章
1963年 - 藍綬褒章
1965年 - 勲二等旭日重光章
1967年 - 勲一等瑞宝章

また、彼の息子たちは、それぞれ別の道を歩みましたが、水野惣平はアラビア石油会長、正木烝司は株式会社泰正社長として活躍しました。弁護士の正木ひろしも縁戚にあたります。

山下太郎の生涯は、困難に立ち向かい、常に前進する不屈の精神と、日本の発展を願う情熱に満ち溢れていました。彼の足跡は、今日でも多くの人々に勇気と希望を与え続けています。