山科本願寺

山科本願寺：寺院と城郭の融合

山科本願寺（やましなほんがんじ）は、かつて京都市山科区に存在した浄土真宗の寺院です。本願寺第8世法主である蓮如によって、文明15年（1483年）に建立されました。寺院としての役割だけでなく、周囲に堀と土塁を築き、寺内町を形成するなど、城郭としての機能も兼ね備えていた点が特徴です。しかし、天文元年（1532年）には六角氏と法華宗徒による焼き討ちで焼失し、その姿を消しました。

山科本願寺の概要

建設は文明10年（1478年）から始まり、約6年の歳月をかけて完成したとされています。山科盆地の西側に位置し、四ノ宮川と山科川（旧音羽川）の合流地点という交通の要所でした。当時から「城」として認識されており、その構造は「輪郭式」または「回字式」と呼ばれる近代城郭の縄張りを採用していました。これは、同時期の他の城郭が山城であるのに対し、平城でありながら近代的な要素を含んでいたという点で特筆されます。

山科本願寺建立以前

山科本願寺の跡地では、過去に20数回の発掘調査が行われています。その結果、本願寺建立以前にも多くの遺構や遺物が発見されており、この地が古くから重要な場所であったことが示唆されています。しかし、鎌倉時代以降には遺跡の発見が少なくなっており、これは地形の変化や水田開発の困難さが原因であると考えられています。

山科本願寺の沿革

本願寺はもともと親鸞の墓所である大谷にありましたが、寛正6年（1465年）に延暦寺宗徒の攻撃を受け破壊されました。その後、蓮如は越前吉崎御坊に移り、京都に近い山科の地を選んで本願寺を再建しました。

文明10年（1478年）に造営が開始され、まず「向所」「寝殿」「御影堂」、そして文明13年（1481年）に「阿弥陀堂」が完成し、中心部の「御本寺」が形成されました。文明15年（1483年）には、「内寺内」「外寺内」も完成しました。また、延徳元年（1489年）には、蓮如の隠居地となる「南殿」が東側に造営されました。この間には、本願寺傘下であった興正寺が「御本寺」の南に建てられています。

蓮如の没後、第9世法主実如、第10世法主証如の時代になると、山科本願寺は本格的な城郭化が進みました。特に実如時代の永正年間（1504年 - 1521年）に「内寺内」、永正10年（1513年）頃に「外寺内」に土塁が築かれました。

山科本願寺の戦い

享禄5年（1532年）7月、法華一揆が蜂起すると、細川晴元は一転して法華一揆衆と手を結びました。同年8月23日、山科本願寺の周囲に法華一揆衆が布陣し、翌24日早朝から攻撃を開始しました。「水落」と呼ばれる場所から侵入され、寺町一帯は炎上し陥落。法主の証如は事前に大坂御坊に移っており無事でしたが、親鸞聖人御影は実従によって救出され、後に大坂御坊へ移されました。この戦いにより山科本願寺は壊滅しましたが、その後も一向一揆衆と法華一揆衆の争いは続き、京都周辺は混乱しました。

山科本願寺の構造

山科本願寺は、「仏の国」と称されるほど壮大であり、南北1km、東西0.8kmに及ぶ広大な規模であったと推定されています。寺域は城郭の曲輪に準じ、主に4つの区画で構成されていました。

御本寺

本丸に相当する場所で、「御影堂」「向所」「寝殿」「阿弥陀堂」などが建っていました。現在は宅地化が進み、当時の面影はほとんど残っていません。

内寺内

二の丸に相当し、蓮如やその家族が住んでいたと考えられています。南側には興正寺や町屋があり、本願寺と内寺内の境界であった「ミツオチ（水落）」から敵の侵入を許しました。

外寺内

三の丸に相当する場所で、在家信者の町屋がありました。絵師、飴屋、塩屋、酒屋、魚屋などの商人が住んでいたと記録されています。蓮如の没後には、御廟所が設けられました。

南殿

蓮如の隠居施設とされていますが、発掘調査の結果、二重の堀、土塁、柵列などの防御施設があったことが判明しています。単純な隠居施設ではなく、防御機能も兼ね備えていたと考えられています。

土塁と堀

山科本願寺は交通の要所でありましたが、要害の地ではありませんでした。防御能力を高めるために複雑な土塁と堀が築かれており、巨大な土塁によって内部の様子を敵に悟られないように工夫されていました。発掘調査により、幅12m、深さ4mもの巨大な堀や、石組暗渠などが確認されています。

山科中央公園の土塁跡

現在、山科中央公園には、高さ7mの巨大な土塁跡が残っており、国の史跡に指定されています。絵図によると、土塁の各コーナーには横矢をかける太鼓櫓のような建物があったとされ、防御施設だけでなく攻撃施設としての機能も有していました。

山科本願寺跡へのアクセス

電車

京都市営地下鉄東西線「東野駅」から徒歩約15分で山科中央公園の土塁跡に到着します。

車

名神高速道路「京都東IC」から国道1号線を経由します。近隣には駐車場はありません。

まとめ

山科本願寺は、寺院でありながら、城郭としての機能も備えていた特異な存在です。蓮如によって建立され、広大な寺内町を形成しましたが、戦火により焼失しました。その跡地は現在、公園や別院となっており、わずかな遺構がその歴史を伝えています。山科本願寺は、中世の寺院と城郭が融合した貴重な例として、歴史的に重要な意味を持っています。

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