山陽丸 (特設水上機母艦)

山陽丸の生涯：貨物船から特設水上機母艦、そして沈没へ

山陽丸は、大阪商船（現在の商船三井）が建造した畿内丸型貨物船の3番船として、その歴史をスタートさせました。1930年10月31日に三菱重工業長崎造船所で竣工し、翌11月にはニューヨーク航路での処女航海に旅立ちました。この航路では、生糸が主要な積荷でしたが、時には冷凍マグロを運ぶこともありました。

その後、山陽丸はヨーロッパ航路にも投入され、第二次世界大戦の勃発後も運航を続けました。イギリスによる拿捕の危険を冒しながらも、ドイツからの貨物を積んで日本へ帰国することもあったと言います。しかし、1941年5月2日に神戸を出港した航海を最後に商業航海の歴史に幕を閉じ、同年8月6日、日本海軍に徴用され、横須賀鎮守府籍となりました。

特設水上機母艦としての山陽丸

1941年8月15日、山陽丸は特設水上機母艦として正式に入籍し、艤装工事を受けました。同年9月30日には、第十二航空戦隊に編入され、太平洋戦争開戦直前の11月22日には佐世保を出港、11月27日に三亜に到着しました。

太平洋戦争緒戦では、第十二航空戦隊の一員として、同じく特設水上機母艦の「神川丸」や第九根拠地隊の「相良丸」と共に、馬来部隊の第二航空部隊を編成し、マレー半島への上陸作戦に参加しました。船団護衛、泊地の警戒、陸戦支援が主な任務であり、リエム湾に進出した山陽丸の水上機は、船団の護衛や敵の索敵活動に貢献しました。12月9日には、プロコンドル島へ進出しています。

12月10日に発生したマレー沖海戦では、カムラン湾から発進した山陽丸と神川丸の水上機が索敵活動を行い、プロコンドル島に到着した山陽丸も搭載機を索敵に派遣しましたが、イギリス艦隊を発見することはできませんでした。

1942年に入ると、山陽丸は神川丸とともに蘭印作戦に転じ、タラカン島やバリクパパン攻略戦の支援に尽力しました。その後もジャワ島への上陸作戦、メルギーを拠点とした水上機基地設営、マラッカ海峡警戒、アンダマン諸島攻略作戦の支援など、転戦を繰り返します。5月には小スンダ列島戡定作戦に参加、7月下旬にはタニンバル諸島平定戦に協力しました。

ガダルカナル戦線への投入と損傷

ガダルカナル島の戦いが始まると、山陽丸はソロモン諸島方面へと転戦し、ショートランドに到着後、ガダルカナル島方面の航空作戦を支援しました。

1942年11月21日未明、トラック諸島へ向けてショートランドを出港した直後、アメリカ潜水艦スティングレイの雷撃を受け、船体後部に魚雷が命中して航行不能となりました。駆逐艦「高波」「天霧」、特設水上機母艦「讃岐丸」などの支援を受け、ショートランドに引き返し応急修理を開始しますが、度重なる空襲の影響で避泊地を転々とし、12月21日には爆撃により船体後部構造物に損傷を受けました。

1943年1月9日、山陽丸は特務艦「鶴見」に曳航されてショートランドを出港し、1月17日にトラックに到着。工作艦「明石」による修理を受けた後、特設給兵船「興業丸」に曳航され、呉に帰投し本格的な修理に入りました。

特設運送船としての終焉

1943年10月1日、山陽丸は特設運送船（雑用甲）に類別変更され、輸送任務に従事することになりました。トラックやマリアナ諸島方面への輸送任務に従事し、1944年3月20日には東松三号特船団に加わって館山を出港、3月28日にトラックに到着しました。4月にはサイパン島、メレヨン島への輸送を行いました。この間、護衛には駆逐艦「雷」が就いていましたが、「雷」は4月13日にアメリカ潜水艦「ハーダー」の雷撃により沈没しました。

4月26日に横浜に帰投後、5月13日にはヒ63船団に加入して門司を出港。5月18日にマニラに到着後、ヒ63船団と分離し、軍需品を積んでハルマヘラ島へ向かいました。セブに寄港後、ハルマヘラ島カウ湾に向けて航行中の5月26日16時25分、マナド北方海域でアメリカ潜水艦カブリラの魚雷攻撃を受けました。

カブリラが発射した魚雷のうち2本が、山陽丸の4番船倉と6番船倉（右舷艦尾・機関部とも）付近に命中し、山陽丸は航行不能となりました。船尾から徐々に沈み始め、下士官兵達は酒保からサイダーや菓子を持ち出し最後の宴会を開いたといいます。応急処置命令が出された時には、既に右舷に45度傾斜しており、手遅れでした。

山陽丸は19時40分に沈没し、その生涯を終えました。1944年7月10日に除籍および解傭されました。

山陽丸の艦長は、藤沢孝政大佐、市來政章大佐、毛利良大佐が務めました。山陽丸は、同型艦として「畿内丸」、「東海丸」、「北陸丸」、「南海丸」、「北海丸」があり、準姉妹船として「関東丸」と「関西丸」がありました。

山陽丸の歴史は、商船としての役割から、戦時下での軍事的な役割への転換、そして悲劇的な最期を通して、太平洋戦争の一断面を物語っています。

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