岩屋ダム

岩屋ダム

岩屋ダムは、岐阜県下呂市、一級河川・木曽川水系馬瀬川に建設された、高さ127.5メートルの傾斜土質遮水壁型ロックフィルダムです。独立行政法人水資源機構が管理しており、木曽川水系水資源開発基本計画における馬瀬川総合開発事業の中核を担っています。このダムは、馬瀬川および合流先の飛騨川・木曽川の洪水調節、愛知県西部・岐阜県南部・三重県北部への灌漑・上水道・工業用水の供給、さらに中部電力の馬瀬川第一発電所による水力発電という、多岐にわたる目的を達成するために建設されました。東海三県にとって重要な水がめの一つであり、ダムによって形成された人造湖は東仙峡金山湖と命名されています。これは飛騨川流域における最大の人造湖です。

沿革

岩屋ダムの計画は、1960年（昭和35年）に中部電力による飛騨川流域一貫開発計画の一環として浮上しました。当時、飛騨川流域では朝日ダムや秋神ダムを始めとするダム式発電所による電源開発が進行しており、高根第一ダムと高根第二ダムによる揚水発電所の建設も進められていました。中部電力は、馬瀬川中流部に大規模なダムと揚水発電所を建設することで、増大する電力需要に対応しようとしました。岩屋地点に計画されたダムは、飛騨川流域でも最大級の規模でした。

同時期、中京工業地帯の発展に伴い、中京圏の人口増加と工業生産の拡大により水需要が逼迫していました。愛知用水の整備後も、拡大する農地への新規灌漑のための水源確保が課題となっており、これらの事業も岩屋地点のダム計画に注目しました。農林省（現・農林水産省）は「国営濃尾第二下流土地改良事業」などの水源整備を行う「木曽川総合利水事業計画」を、経済企画庁（現・経済産業省）は「昭和38年度総合開発調査」の地点選定を行い、共に岩屋地点を水源候補として選定しました。これらの事業者間の調整のため、通商産業省（現・経済産業省）が「昭和38年度総合開発調査」に沿った現地調査を実施した結果、有効貯水容量1億トン規模のダム建設が適切であるとの結論に至りました。

一方、伊勢湾台風以降の総合治水対策を検討していた建設省（現・国土交通省）は、1964年（昭和39年）から木曽川水系の計画高水流量（洪水調節の基準となる計画洪水流量）の見直しを行っており、岩屋ダム計画への参入によって飛騨川・木曽川の洪水調節を行うことが妥当であるとの結論に至り、河川管理者として治水事業に参入しました。さらに、木曽川水系は1966年（昭和41年）に水資源開発促進法に基づき「水資源開発水系」に指定され、名古屋市への上水道供給を視野に入れた総合的な水資源開発が水資源開発公団（現・独立行政法人水資源機構）によって進められることとなりました。当初発電用ダムとして計画されていた岩屋ダムは、治水・利水の要となる多目的ダムとして計画が大幅に拡大されました。

こうして建設省（治水）、水資源開発公団（上水道）、通商産業省（工業用水道及び水力発電）、農林水産省（灌漑）、経済企画庁（総合開発計画立案）の五者による調整を経て、1966年の第43回電源開発調整審議会において、多目的ダム事業と発電事業の二部門を柱としたダム事業が決定しました。当初、電気事業者である中部電力と河川管理者である建設省中部地方建設局（現・国土交通省中部地方整備局）が共同で事業を行っていましたが、その後、「木曽川水系水資源開発基本計画」（フルプラン）の改訂に伴い、治水と利水事業は水資源開発公団に移管され、以降は水資源開発公団と中部電力による共同事業として工事が開始されました。1971年（昭和46年）から工事が始まり、中部電力によって施工が行われ、1976年（昭和51年）に完成しました。

ダムの目的

岩屋ダムの主な目的は、木曽川下流部における洪水調節（計画高水流量毎秒16,000トンのうち、毎秒3,500トンをカット）、名古屋市・愛知県尾張地域・岐阜県中西濃地域・三重県北勢地域への上水道供給、中京工業地帯および愛知・岐阜内陸部の工業地域に対する工業用水の供給、農業用水の供給、そして水力発電です。農業用水の供給は、農林水産省管轄の水資源開発公団二工（現・水資源機構水路事業部）が管理する木曽川用水上流部の水源として利用されています。岩屋ダムに貯えられた水は、加茂郡白川町に建設された上麻生ダム（中部電力）の貯水池に設けられた白川取水口から取水され、トンネルを通じて美濃加茂市の蜂屋調整池・上飯田調整池で一時的に貯留された後、美濃加茂市・関市・八百津町など木曽川右岸地域約4,000ヘクタールに新規農業用水を供給しています。

馬瀬川第一発電所

中部電力は、岩屋ダムと同じ1976年に完成した直下流の馬瀬川第二ダム（重力式コンクリートダム、高さ44.5m）との間で、馬瀬川第一発電所にて揚水発電（混合揚水）を行っています。この発電所は二台の水車発電機を有し、合計最大出力は288,000kWです。採用された立軸形斜流（デリア）ポンプ水車の出力は149,000kWで、これは世界最大級です。木曽川水系では、奥美濃発電所・高根第一発電所に次ぐ出力を誇ります。

岩屋ダムは、木曽川治水の要として、また名古屋市をはじめとする東海地方の水がめとして、味噌川ダム（木曽川）、牧尾ダム（王滝川）、阿木川ダム（阿木川）と共に重要な役割を果たしています。

東仙峡金山湖

岩屋ダムによって形成された人造湖は東仙峡金山湖と名付けられ、東海三県の水がめとしての役割を担っています。湖底にはかつて旧益田郡金山町東地区と馬瀬村の住民157世帯が住んでおり、ダム建設によって故郷を離れることを余儀なくされました。ダムサイト傍には、水没住民による望郷の碑が建立されており、名古屋の発展のために犠牲になった住民の苦労を偲ぶことができます。名古屋市（水道消費地）と下呂市（水源地）の間では、毎年、上下流住民交流事業が行われています。なお、水源地域対策特別措置法の指定は受けていませんが、これは施行直前に補償交渉が妥結したためです。

東仙峡金山湖は、飛騨地方における紅葉の名所として知られています。また、馬瀬川はアユ釣りの名所でもあり、シーズン中は多くの釣り人が訪れます。ダム下流左岸にある岩屋岩蔭遺跡は、古代の天文台として発掘された遺跡として有名です。

アクセス

車でのアクセス

富山市方面から：国道41号を下呂市・高山市方面へ南下し、下呂市保井戸地内から濃飛横断自動車道に入り、下呂ICから金山ICで降りて、岐阜県道86号金山明宝線に入り、約10分。
岐阜市・美濃加茂市方面から：下呂市金山町金山の国道41号下妙見交差点から岐阜県道86号金山明宝線に入り、約20分。

公共交通機関でのアクセス

JR高山本線飛騨金山駅から、げろバス金山・東線乙原行に乗り、終点「乙原」で下車。その後徒歩約30分。
飛騨金山駅からタクシーも利用可能。

参考文献

『日本の多目的ダム』1972年版：建設省河川局監修・全国河川総合開発促進期成同盟会編。山海堂 1972年
『日本の多目的ダム』1980年版：建設省河川局監修・全国河川総合開発促進期成同盟会編。山海堂 1980年
『ダム便覧 2006』：日本ダム協会。2006年

関連項目

ダム
日本のダム - 日本のダム一覧 - 日本の人造湖一覧
ロックフィルダム
多目的ダム - 日本の多目的ダム一覧
木曽川用水 - 木曽川大堰
下呂市 - 金山町 - 馬瀬村

外部リンク

独立行政法人水資源機構岩屋ダム管理所
中部電力馬瀬川第一発電所
財団法人日本ダム協会『ダム便覧』岩屋ダム

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