工藤一三

工藤一三（くどうかずぞう）は、1898年 7月27日青森県弘前市に生まれ、1970年 7月2日に没した日本の柔道家です。講道館九段、大日本武徳会範士という称号を持ち、戦前の明治神宮競技大会などで目覚ましい活躍を見せました。古賀残星によって選ばれた「柔道十傑」の一人としても知られています。

旧制浦和高校（現在の埼玉大学）の助教授を経て、ドイツに留学し、柔道の普及に尽力しました。帰国後は警視庁にて逮捕術制定に携わり、講道館審議委員や全日本柔道連盟理事を務めるなど、柔道界の重鎮としてその名を知られました。

経歴

富山県で育ち、県立高岡中学校（現在の県立高岡高校）在学中に磯貝誠三から柔道の指導を受けました。1916年に同校を卒業後、東京高等師範学校体育科に進学。永岡秀一の指導のもと、柔道の腕をさらに磨きました。1917年5月に講道館に入門し、翌年の秋には紅白試合でその技量を発揮し三段に昇段。1922年に高等師範学校を卒業する際には、当時としては数少ない四段に列せられました。橋本正次郎、桜庭武と共に「永岡門下の3羽鳥」と称されたことからも、高師時代における工藤の活躍ぶりが窺えます。

佐賀県の県立鹿島中学校で1年間教員を務めた後、1923年に旧制浦和高校助教授となり、同校に柔道部を創設。東京の成城中学校の柔道教師も兼任しました。1925年8月には五段位を許されています。

身長165cm、体重70kgと体格には恵まれていませんでしたが、左右の払腰と釣込腰を得意とし、後に払釣込足や横捨身技も得意技に加えました。東京・福岡対抗戦、満鮮遠征軍、武徳大会などで活躍し、名を轟かせたのは1926年5月に済寧館で開催された全国道州府県選抜優勝試合でした。準決勝戦で三船門下の佐藤金之助六段を払腰で破り、決勝戦では山中良一四段を釣込腰で破り、優勝を果たしました。この活躍により、大会後には柔道教士号を授与されています。

同年11月には、第3回明治神宮大会の青年組五段の部に出場し、決勝戦で古沢勘兵衛と延長3回に及ぶ激戦の末、引き分けとなりました。

明治神宮大会直後の12月には、文部省から「体育に関する事項の研究」という名目で、今井寿男五段と共にドイツへの留学を命じられました。工藤はベルリン大学と体育大学で研究を行いながら、現地で柔道指導を行いました。1928年8月には嘉納治五郎がドイツを訪問し、工藤や会田彦一五段と共に講演会を開催。嘉納の術理と工藤・会田の妙技は、ドイツの柔道家たちに大きな影響を与え、柔道は一層の人気を博しました。

1929年に帰国後、御大礼記念天覧武道大会に選出されましたが、体調不良のため出場は叶いませんでした。1930年1月には六段に昇段。5月には済寧館で開催された武道大会で川上忠六段と模範乱取りを行い、観衆を驚かせました。

同年、嘉納治五郎の推薦により国士舘専門学校教授に就任。しかし、国士舘騒動により同校を追われることとなりました。その後、法政大学や日本大学の柔道教師を務めました。1934年には皇太子殿下御誕生奉祝武道大会にて栗原民雄七段と特選乱取りを行い、古賀残星によって柔道十傑に選ばれています。

1941年9月に東京柔道有段者会の幹事、1943年には日本体育専門学校講師を兼任。1944年には大日本武徳会範士号を受けました。戦後は警察官の逮捕術制定に携わり、警察大学校教授も務めました。1958年に九段位を允許。1963年には欧州各国の警察で柔道と逮捕術を指導しました。東京五輪では柔道競技審判員を務め、晩年は講道館特別指導員、全日本柔道連盟理事などを歴任。1965年には紫綬褒章を受章しました。

世田谷区に居を構え、『柔道教科書』や『ダイナミック柔道』など、多くの柔道に関する著書を執筆しました。1970年 7月2日、尿毒症のため71歳で逝去。同年、柔道功労者として従四位・勲三等瑞宝章を授与されました。

工藤の死後、工藤雷介は「口八丁・手八丁」と評し、樽沢正は「慈父の如く慕われた」と述懐するなど、彼に対する評価は分かれました。趣味は囲碁で、日本棋院四段の腕前でした。

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