逮捕術

逮捕術とは

逮捕術は、日本の警察官、皇宮護衛官、海上保安官、麻薬取締官、自衛隊警務官などの司法警察職員、または入国警備官など司法警察職員に準じた職務を行う公務員が、被疑者や現行犯などを制圧・逮捕・拘束・連行するための術技です。職務遂行時の受傷事故を防ぐための護身術としての側面も持ち合わせています。

歴史

前史

警察業務に携わる人々は、古くから武術を学んでいました。室町時代にはすでに捕手術が存在し、素手や捕具を用いていました。中期には十手も使用され、捕縄術も発展しました。

江戸時代になると、武術は民衆にも広まり、警察業務にも武術の心得は必須となりました。当時の与力や同心は、捕手術に加え、剣術、柔術、居合、棒術など、武芸十八般を修めていました。

また、被差別身分の方々も、柔術や捕縄術などを学び、下手人の追捕や牢番などの業務にあたっていました。藩によっては、彼らに国境警備を任せ、武士と同様の訓練を施すこともありました。

明治時代

明治時代に入り、初代大警視の川路利良は巡査教習所で剣術を教える際、武術の重要性を訴え、「警察武術」の創設を提唱しました。その後、警視庁の武術世話係によって、剣術、柔術、居合からなる「警視流」が創設されました。

逮捕術の制定

逮捕術の基本構想は、昭和22年（1947年）に生まれました。当時、各県の警察が逮捕術を研究していましたが、全国的な規模で総合的に研究する必要がありました。そこで、警察庁は柔道、剣道、杖術、柔術・空手、ボクシングなどの専門家を制定委員に任命し、それぞれの技術を組み合わせて逮捕術を創案しました。

昭和32年（1957年）には、基本動作の効率的な学習を目的とした改正が行われましたが、現場の警察官には普及しませんでした。そのため、警察大学校の術科教養部がさらなる研究を行い、徒手術技は日本拳法、警棒術技は剣道、警杖術技は神道夢想流杖術を基礎として、昭和42年（1967年）に現在の逮捕術が制定されました。翌年には基本テキストである『逮捕術教範』が完成しました。

昭和53年（1978年）4月時点で、警察内部の技能検定有級者は95%に達し、逮捕術を活用して逮捕に成功した事例は1万件を超えています。

技法

逮捕術は、「突き」「蹴り」「逆（さか）」「投げ」「絞め」「固め」「警棒」「警杖」「施錠」など、総合格闘技的な要素を含んでいます。ただし、犯人に過剰な攻撃を与え殺傷すれば、事件捜査や刑事裁判に支障をきたし、人権侵害にもつながるため、打撃は逮捕に必要な最低限となるように指導されています。

訓練や競技では、実戦を想定してゴム製短刀や木製模擬拳[[銃]]、ソフト警棒などが使用されることがあります。

試合

試合では、警杖、警棒、ソフト警棒、長物、短棒、短刀などの用具が用いられます。防具は剣道に似た面、胴、小手、垂や、日本拳法に似た股当てを着用し、「逮捕術シューズ」を履いて行われます。試合は9メートル四方の畳の上で行われ、場外に出ると反則となります。

試合では、用具による打突、素手による打撃、投げ、関節技などが有効とされます。有効な攻撃は以下の通りです。

用具による攻撃: 肩、小手、胴への打撃、胴への突き。警杖で短刀を叩き落とす。ソフト警棒試合の場合は、肩、肘、小手、胴、膝への打撃。
素手による打撃: 顎、胴への打拳（用具を持った手での打撃も有効）、胴への蹴り、肘当て、膝当て。倒れた相手への即座の打撃。
* 投げ技、関節技: 有効な投げ技（「警察柔道試合及び審判規則」における技あり以上のもの）。相手の蹴りを外し、蹴り足を制する。手首、肘への逆極め（相手の「参った」で一本）。臥せた相手の首を制する。

頭部への蹴り、踏みつけ、肘、膝以外への関節技、河津掛けや蟹挟などの技は禁止されています。

その他

皇宮警察では、天皇・皇族の身辺警護のための「側衛術」という独自の逮捕術を訓練しています。

自衛隊の警務隊で教育訓練されている自衛隊逮捕術は、警察の逮捕術を基礎に独自の改良を加えたものです。

海上保安大学校では、海上保安官の幹部候補生に対し、逮捕術訓練を実施しています。

警備員の護身術教範は、警察の逮捕術教範をベースにしていることが多いですが、独自の護身術を考案している警備会社もあります。

世界各国の警察組織や治安・保安・公安・情報機関でも、それぞれ独自の術技が研究・指導されています。

アイルランドでは、警察の訓練に柔道を取り入れており、日本の逮捕術の導入も検討されています。アイルランドの警察官は基本的に銃を携帯せず、警棒のみを武装としているため、警棒を使った日本の逮捕術に関心があるようです。

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