左手のためのピアノ協奏曲 (ラヴェル)

モーリス・ラヴェルの『左手のためのピアノ協奏曲ニ長調』

モーリス・ラヴェルの『左手のためのピアノ協奏曲ニ長調』は、第一次世界大戦で右手を負傷したピアニスト、パウル・ウィトゲンシュタインの依頼によって作曲されました。この作品は、ラヴェルにとって最初のピアノ協奏曲であり、マルセル・マルナによって作品番号M.82とされています。

作曲の背景

ラヴェルは、この協奏曲を作曲するにあたり、同時期に構想していた『ピアノ協奏曲ト長調』と並行して作業を進めました。彼はこの経験を「非常に興味深い体験だった」と述べています。

作曲は1929年の冬に始まり、約9ヶ月後の1930年に完成しました。ラヴェルは、作曲にあたり、サン＝サーンス、ゴドフスキー、チェルニー、アルカン、スクリャービンといった作曲家による左手のためのピアノ曲を研究しました。これらの作品から、彼は左手のみで演奏するピアノの可能性を深く探求しました。

初演とその後

1931年 11月27日、ウィーンでロベルト・ヘーガーの指揮、ウィトゲンシュタインのピアノによって初演されました。しかし、ウィトゲンシュタインは、楽譜通りに演奏せず、自己の解釈を加え、さらに作品の技巧に偏り音楽性がないと批判したため、ラヴェルとの関係は険悪なものとなりました。その後、1933年 1月27日にジャック・フェヴリエの独奏によってパリで再演され、初めて楽譜通りに演奏されました。

この協奏曲は、その後も多くの左手ピアニスト（ミシェル・ベロフ、レオン・フライシャー、舘野泉など）によって演奏され、彼らの重要なレパートリーの一つとなっています。もちろん、通常のピアニストによっても盛んに演奏されています。

楽器編成

この協奏曲の楽器編成は、独奏ピアノ、ピッコロ、フルート2、オーボエ2、イングリッシュホルン、小クラリネット、クラリネット2、バスクラリネット、ファゴット2、コントラファゴット、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、大太鼓、小太鼓、シンバル、タムタム、トライアングル、ウッドブロック、ハープ、弦五部という、大規模な三管編成が採用されています。

多様な打楽器とハープの使用は、『ピアノ協奏曲ト長調』と共通しています。左手のみの演奏となるピアノの音色が薄くならないように、オーケストラの音色が豊かに作られているのが特徴です。

楽曲構成

この協奏曲は、レント、ニ長調、4分の4拍子で、演奏時間は約18分です。単一楽章の3部構成と捉えることができますが、3楽章構成と解釈することも可能です。通常の協奏曲の「急-緩-急」という構成とは異なり、「緩-急-緩」という逆の構成になっているのが特徴です。

ラヴェル自身は、自筆譜の表紙に「混じりあったミューズたち」と記しており、叙情的な音楽、ジャズ、スケルツォ、行進曲など、様々な音楽様式が混ざり合っていることを示唆しています。

第1部

コントラバスとチェロによる和声、コントラファゴットの旋律という低音で始まり、オーケストラが次第に高揚します。その頂点でピアノが華やかなカデンツァを奏でます。全体として可憐なイメージを持ちます。

第2部

テンポがアレグロに変わり、ジャズ風のピアノ演奏が繰り広げられます。途中で第1部を思わせる美しい旋律が現れますが、全体としてユーモアに溢れています。

第3部

再びテンポ・プリモに戻り、第1部の回帰主題が奏でられます。その後、ピアノの非常に長いカデンツァとなり、ラヴェル独特の精緻な技巧が左手のみで超絶的に演奏されます。最後はアレグロとなり、第2部の動きが繰り返され、一瞬のうちに曲が終わります。

外部リンク

* 左手のためのピアノ協奏曲ニ長調 M. 82の楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト)

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