市 (中華民国)

中華民国における「市」の制度

中華民国における「市」（City）は、第二級行政区画の一つであり、その制度は時代とともに大きく変遷してきました。初期の北京政府時代から、国民党政権時代、そして台湾への移転後まで、その種類や管轄、設置要件は複雑に変化してきました。現在の台湾地区には、基隆市、新竹市、嘉義市の3市が存在しますが、その背景には長い歴史があります。

市の区分

現行法では、市は以下の3種類に区分されます。

直轄市: 行政院の直接管轄下にある市。
市: 省の管轄下にある市。かつては「省轄市」と呼ばれていました。
県轄市: 県の管轄下にある市。

歴史的変遷

北京政府時代

中華民国建国直後、府は全て廃止され県に再編されました。市制を望む県もありましたが、北京政府によって全て却下されました。初めて市が設置されたのは、1921年に成立した広州市です。

1921年、広東軍政府は広州を独立した行政区画とする計画を立て、「広州市暫行条例」を制定しました。これにより、広州市が正式に成立し、初代市長に孫科が就任しました。同年には汕頭市も市制を施行しました。

同年、北京政府は「市自治制」を公布し、市を「普通市」と「特別市」に区分しました。普通市は県に属し、特別市は県と同格とされました。京都特別市（現在の北京市）と青島特別市が設置され、首都である京都特別市は内務総長の直接監督下に置かれました。

中国国民党政権時代

国民政府による北伐完了後、1928年に「市組織法」と「特別市組織法」が公布されました。この法律によって市の最高行政機関は「市政府」、最高立法機関は「市参議会」とされました。1930年には新たな「市組織法」が制定され、市は「院轄市（現在の直轄市）」と「省轄市」の2種類に再編されました。院轄市は省と同格、省轄市は県と同格とされ、設置要件として院轄市は人口100万人以上、省轄市は20万人以上と規定されました。

市の下には区が置かれ、その下に保、さらにその下に甲が置かれました。10～30戸を1甲、10～30甲を1保、10～30保を1区としました。

1945年、日本の降伏に伴い台湾を接収した際、台湾総督府が設置していた市を省轄市・鎮・郷のいずれかに改編する予定でしたが、民意の影響を受け、台湾省内限定の行政区画として省轄市と鎮の間に県轄市が設けられました。県轄市の下には区は設置されず、代わりに里が設けられました。

台湾移転後

1950年、台湾省政府は「台湾省各県市実施地方自治実施綱要」を制定し、地方自治はこの法令に従って行われることになりました。

1982年には、新竹市と嘉義市が県轄市から省轄市に昇格しました。

1994年、「省県自治法」が制定され、院轄市は直轄市に、省轄市は市に改称されました。この法律では、市は政治的、経済的、文化的に重要で、人口が60万人以上の地区に設置できるとされました。

1999年、政府は各行政区画に関する法令を集約して「地方制度法」を制定しました。虚省化（省の機能削減）に伴い、市の自治権限が調整され、以前は省政府の管轄下にあった市は、現在は行政院の各部の中部弁公室や各地に設置されている聯合服務中心が業務を行っています。

2010年には、台中市と台南市が廃止され、それぞれ台中県・台南県と合併して直轄市に昇格しました。

現行の「地方制度法」では、市は政治的、経済的、文化的に重要で、人口が50万人以上125万人未満の地区に設置できると規定されています。しかし、基隆市、新竹市、嘉義市は、いずれも「地方制度法」制定以前に設置されたため、人口が50万人に満たない状態です。

現在の市

2024年現在、中華民国（台湾地区）には以下の3市が存在します。

基隆市
新竹市
嘉義市

過去に存在した市

過去には、様々な理由で廃止されたり、直轄市に昇格したために消滅した市が数多く存在します。例えば、人口問題や財政問題で廃止された省轄市が23市、院轄市に昇格したために消滅した省轄市が6市あります。

まとめ

中華民国の「市」制度は、時代とともに複雑に変化してきました。当初は北京政府の管轄下で、その後国民党政権下で再編され、台湾移転後も地方自治の進展とともに変遷を遂げました。現在、台湾地区には3つの市が存在していますが、その成立背景には長い歴史と複雑な制度が存在します。

もう一度検索