常安寺 (鳥羽市)

常安寺：鳥羽藩主・九鬼家の歴史を刻む寺院

三重県鳥羽市に位置する常安寺は、曹洞宗永平寺派に属する由緒ある寺院です。玉龍山を山号とし、鳥羽藩の創設期を支えた名門・九鬼家の菩提寺として、長く地域の信仰の中心となってきました。鳥羽志摩地方には曹洞宗の寺院が多く存在しますが、それは九鬼守隆による常安寺の伽藍整備や、後期の藩主である稲垣家が曹洞宗の金胎寺を菩提寺としたことなどが影響していると考えられています。

歴史と変遷：玉龍山大福寺から常安寺へ

常安寺の創建年代は詳らかではありませんが、本尊の釈迦如来坐像は室町時代の作と推定されています。当初は玉龍山大福寺として、真言宗の寺院でした。しかし、文禄の役の頃、九鬼嘉隆が常安寺の香花院となり、篤い信仰心から曹洞宗への改宗を志します。

九鬼嘉隆は、三河国宝飯郡（現在の愛知県豊川市）の豊川妙厳寺から天堂伊尭禅師を招き、大福寺を曹洞宗に改めました。その後、慶長5年（1600年）には豊川妙厳寺七世悳善達和尚の法嗣である貫室禅道和尚を招聘し、同寺の末寺となりました。同年、九鬼守隆は両親の菩提を弔うため、大規模な改築に着手。現在の薬師堂が当時の本堂であったと伝えられています。

慶長12年2月（グレゴリオ暦1607年2月～3月）、七堂伽藍を備えた壮大な寺院が完成し、入仏式を機に寺号を東照山常安寺と改めました。九鬼守隆は寺領100石と灯籠の油料20石を寄進するなど、常安寺を厚く保護しました。しかし、寛永9年（1632年）に守隆が亡くなり、翌年には家督争いを原因とする九鬼氏の国替えによって、寺領と油料は失われてしまいます。

それでも九鬼氏の崇敬は続き、丹波国綾部藩に転封となった九鬼隆季は、遺言により常安寺で葬儀を執り行いました。また、摂津国三田藩に移封された九鬼久隆は、移封先の梅林寺を心月院と改名し、常安寺から覚雄是的和尚を招いて宗廟としました。その後、山号は東照山から玉龍山に戻り、文政9年（1812年）には本堂が改築されています。

自然災害と歴史的出来事

嘉永7年（1854年）の安政東海地震では、内陸部にある常安寺にも津波が押し寄せたという記録が残っています。慶応2年（1866年）には、稲垣氏の墓所が九鬼氏の廟所の隣に設けられました。これは幕末の動乱期に、稲垣家の菩提寺である金胎寺の境内が狭かったことなどが理由です。

明治時代には、西南戦争の際に鳥羽港に寄港した明治天皇が常安寺の奥書院に宿泊したという歴史もあります。昭和25年には、「パールカーニバル 鳥羽みなとまつり」で昭和天皇が採集された標本の展示が行われた記録も残っています。

見どころと境内

常安寺の境内には、本堂を中心に薬師堂、准提堂、庚申堂、十王堂、地蔵堂などの堂宇が並び、山門や鐘楼も存在します。九鬼家の墓所は、山門から本堂へ向かう左手にある山裾にあります。境外には鎮守として豊川吒枳尼尊天堂があり、屋根瓦などには九鬼家の家紋である九曜星が用いられています。寺宝として、九鬼嘉隆が自害した際に使用したとされる短刀も伝わっています。

アクセス

常安寺へのアクセスは、JR参宮線、近鉄鳥羽線・志摩線の鳥羽駅から徒歩約15分、または伊勢二見鳥羽ライン鳥羽出口から車で約8分です。駐車場は3台分（無料）が用意されています。

まとめ

常安寺は、九鬼家の歴史と深い関わりを持つ寺院であり、数々の歴史的出来事や自然災害を乗り越えて現在に至っています。静寂に包まれた境内には、歴史を感じさせる建造物や貴重な文化財が数多く残されており、訪れる人々に安らぎと歴史への想いを届けてくれる場所です。鳥羽を訪れた際には、ぜひ足を運んでみてください。

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