常州学派

常州学派：清代儒学の革新と疑古への道

常州学派は、18世紀から19世紀にかけて中国で隆盛を極めた儒学の学派です。その特徴は、漢代の今文経学、特に『春秋公羊伝』に基づいた解釈にあります。常州地方を拠点に活動した荘存与、劉逢禄らが祖とし、その学問は後世に大きな影響を与えました。

今文経学と公羊学の継承: 常州学派は、漢代の今文経学を重視しました。中でも、董仲舒や何休といった公羊学の大家の学説を継承し、発展させました。創始者である荘存与は、甥の荘述祖や外孫の劉逢禄らにその学問を伝えました。劉逢禄は『春秋公羊伝』に通じ、何休の『公羊解詁』を深く研究し、経書に込められた孔子の思想を解き明かそうと努めました。彼の学問は、後の常州学派の発展に大きな礎を築きました。

経世致用と政治改革: 嘉慶・道光年間には、劉逢禄の学を受け継いだ魏源や龔自珍らが台頭します。彼らは、公羊学の経世致用の思想を基に、社会改革を主張しました。魏源は、劉逢禄とは異なり、董仲舒こそ孔子の真意を解き明かした人物だと見なしました。彼らによる政治改革の主張は、清朝後期の社会思想に大きな影響を与えました。

古文経学批判と孔子の再解釈: 19世紀後半、廖平は古文経学を劉歆の偽作と断定する大胆な主張を行い、大きな論争を巻き起こしました。彼は孔子を単なる学者や教育者ではなく、積極的に社会改革を志した人物として位置付けました。この廖平の主張は、康有為に大きな影響を与えました。

康有為と変法運動: 康有為は、廖平の思想を受け継ぎ、『新学偽経考』（1891年）や『孔子改制考』（1897年）といった著作を発表しました。『新学偽経考』では、古文経学を王莽の新朝建国を正当化するための偽作と断じ、『孔子改制考』では、六経をすべて孔子の創作であり、古代の堯舜の制度をモデルに、孔子が理想国家実現を目指して記したものであると主張しました。

これにより、従来の孔子のイメージは大きく変貌を遂げます。従来、古文学派は孔子を学者、教育者として捉えていましたが、康有為は孔子を、乱世を救済しようとした改革者、思想家として再定義しました。彼の主張は、清末の変法運動の理論的支柱となり、社会に大きな影響を与えました。

疑古派への影響: 常州学派の経書に対する懐疑的な姿勢は、疑古派の歴史観の成立にもつながりました。古文経学の信憑性を疑うことから始まった懐疑は、やがて経書そのものの信憑性へと波及し、顧頡剛らを中心とする疑古派の歴史研究へと発展していきました。彼らは、中国古代の歴史に関する多くの伝承や記録に疑問を呈し、新たな歴史解釈を生み出しました。

まとめ: 常州学派は、今文経学、特に公羊学を基盤とし、経世致用の思想を掲げ、清代後期の政治改革運動に大きな影響を与えました。さらに、古文経学批判を通じて孔子の解釈を転換し、疑古派という新たな歴史観の誕生にも関与しました。彼らの学問は、清朝末期の社会思想や歴史研究に多大な影響を与え、中国近代思想史において重要な役割を果たしたと言えるでしょう。

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