顧頡剛

顧頡剛（こ けつごう）

顧頡剛（1893年5月8日 - 1980年12月25日）は、中国の歴史学者・民俗学者であり、中国の歴史学における「疑古派」の創始者として知られています。彼の学術的な業績は、中国の歴史研究に大きな影響を与えました。

生い立ちと教育

顧頡剛は、江蘇省蘇州府呉県の旧家で生まれました。幼い頃から古典に親しみ、13歳で高等小学校に入学。その後、北京大学に進学し、哲学を専攻しました。北京大学卒業後は、上海の商務印書館で編集者として勤務した後、厦門大学、中山大学、燕京大学、北京大学など、多くの大学で教鞭を執りました。

学術活動

1926年、顧頡剛は学術誌『古史辨』を創刊し、古代中国の歴史に対する批判的な視点を提示しました。彼は、伝統的な歴史観に疑問を呈し、文献の信頼性を検証する実証的な研究を提唱しました。彼の学説は、当時の学界に大きな影響を与え、「疑古派」という新たな学派を形成するに至りました。また、学術誌「Chinese Historical Geography」の編集員も兼任し、地理学的な観点からも歴史研究を進めました。

政治的動乱と晩年

1949年、中国科学院歴史研究所の研究員となり、史記をはじめとする二十四史の校点という大事業に取り組みました。しかし、文化大革命期には「資産階級反動学術権威」として糾弾され、研究活動の中断を余儀なくされました。その後、周恩来の指示により研究活動を再開し、中国社会科学院の特級研究員として、読書と執筆に励みました。

1980年、87歳で逝去。遺体は中国医学科学院に献体されました。

学問と思想

顧頡剛の思想形成は、幼少期の読書体験に深く根ざしています。彼は、父や叔父の蔵書から『東華録』や『皇朝掌故叢編』などの歴史書に触れ、祖父母からは『山海経』などの神話や伝説を聞いて育ちました。11歳の頃には、『綱鑑易知録』を読み、『通鑑綱目』の歴史記述に反発し、梁啓超の言論に触発されて救国の責任を自覚しました。

章炳麟の影響から、今文学派の孔子を教祖とする考えに反対し、史書を見る目で六経を認識するようになりました。また、今文学派の「通経致用」を批判し、実用的な範囲にとらわれない自由な研究の必要性を提唱しました。胡適の教えにより、上古史に対する批判的な見方を強め、劉復の歌謡収集に刺激され、研究範囲を方言、ことわざ、風俗、宗教へと拡大しました。

偽書から偽史の検討へ進み、康有為の『孔子改制考』に啓発され、古文学派の牽強付会を批判しました。彼は、実証的な研究に基づき、公平な歴史観を確立することを追求しました。この研究は、考古学、歴史学、民俗学の知識を統合するという未踏の課題であり、1926年創刊の『古史辨』として結実しました。

魯迅との関係

顧頡剛は、厦門大学で同僚だった魯迅から嫌われていました。魯迅は、短編小説『理水』で、顧頡剛の疑古学説と人物像を風刺しています。

主要著書

『清代著述考』（1920年）
『三皇考』（1936年）
『古史辨』7冊（1926-1941年）
『秦漢的方士与儒生』（1955年）
『尚書通検』（1966年）
『五徳終始説下的政治和歴史』（1970年）
『史林雑識初編』（1977年）
『元明雑劇』（1979年）
『孟姜女故事研究集』（1984年）
『春秋三傳及国語之綜合研究』（1988年）
『中国上古史研究講義』（1999年）
『中国疆域沿革史』（1999年）
『漢代学述史略』（2005年）
『中国当代史学』（2006年）
『顧頡剛読書筆記』（2010年）

日本語訳

『ある歴史家の生い立ち 古史辨自序』（平岡武夫訳、岩波文庫、1987年）
『中国古代の学術と政治』（小倉芳彦ほか訳、大修館書店、1978年）
『西北考察日記』（小倉芳彦ほか訳、学習院大学東洋文化研究所、1982年）
『中国史学入門』（小倉芳彦・小島晋治監訳、研文出版、1987年）

参考文献

顧頡剛『ある歴史家の生い立ち 古史辨自序』（平岡武夫訳、岩波文庫、1987年）
劉起釪『顧頡剛先生学述』（中華書局、1986年）
王煦華「顧頡剛先生学術紀年」（巴蜀書社『紀念顧頡剛学術論文集』所収、1990年）
陳仲奇『顧頡剛の「国史整理計画書」について』（島根県立大学総合政策学会『総合政策論叢』第8号）
小倉芳彦『抗日戦下の中国知識人　顧頡剛と日本』（筑摩書房、1987年）

顧頡剛の学術的な業績は、中国の歴史研究に多大な影響を与え、その思想は現代においても重要な意義を持っています。

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