劉歆

劉歆：経学から暦法、度量衡まで多岐にわたる業績を残した学者

劉歆（りゅう きん、生没年不詳 - 23年）は、中国の前漢末期から新代にかけて活躍した、多才多能な学者でした。経学者、天文学者、目録学者として知られ、その業績は後世に大きな影響を与えました。

華麗なる家系と宮廷でのキャリア

劉歆は、著名な経学者である劉向の子として生まれました。前漢の宗室に属し、兄には劉伋と劉賜がいました。彼は、若い頃から学問に励み、成帝の治世には黄門郎となり、父と共に宮中の図書である秘書の校訂に従事しました。父の死後はその事業を引き継ぎ、哀帝の治世にその校訂を完了させました。

書誌学における金字塔『七略』

劉歆の最大の業績の一つは、中国現存最古の書籍目録である『七略』の編纂です。膨大な書物を体系的に分類・整理したこの目録は、後世の書誌学に大きな影響を与え、班固の『漢書』芸文志にも収録されています。

古文経の擁護と学官化

劉歆は古文経（『春秋左氏伝』『毛詩』『逸礼』『古文尚書』など）の重要性を強く主張し、学官に置くことを提言しました。しかし、当時主流であった今文学者たちの激しい反対に遭い、実現には至りませんでした。 この古文経の擁護は、後漢以降の古文学隆盛の基礎を築いた重要な出来事と言えるでしょう。

新代の貢献と悲劇的な最期

王莽の新朝においては、劉歆は古文経を学官に据えることに成功し、「国師」にまで任命されました。度量衡の改訂にも参画し、独自の理論に基づいた標準器「嘉量」を設計しました。しかし、地皇4年（23年）、王莽への反乱を企てたものの失敗し、自殺に追い込まれました。その動機は、王莽による息子の殺害にあったと伝えられています。

多様な学問分野への貢献

劉歆の学問的貢献は経学にとどまりません。天文学では、三統暦を編纂し、太陽・月・惑星の運行まで計算する精密な暦を作成しました。これは単なるカレンダーではなく、中国暦の枠組みを決定づけるものとなりました。また、司馬遷の『史記』における紀年法の不備を補うため、独自の年代推算法を考案しました。

さらに、音響理論、度量衡理論にも貢献しました。『三統暦』における五声十二律や黄鐘秬黍説は、後の中国の音響理論や度量衡を規定する基礎となりました。「嘉量」は清朝末期まで朝廷で保存されていたほど優れた標準器でした。

五徳終始説の提唱

劉歆は、王朝の興亡を五行説で説明する五徳終始説において、既存の説を修正し、新たな理論を提示しました。これは新から北宋まで1000年以上に渡って用いられることになる重要な思想でした。

偽書疑惑

劉歆は後世、いくつかの経典の偽造に関与した疑いをかけられました。『春秋左氏伝』や『周易』の十翼の一部について、康有為や顧頡剛、幸田露伴といった学者から偽作の疑いが指摘されています。これらの疑いは、劉歆の業績評価を複雑なものにしています。

劉歆の遺産

劉歆は短い生涯の中で、経学、目録学、天文学、暦法、音響理論、度量衡理論など、多様な分野に貢献しました。彼の業績は、中国の学問や文化の発展に多大な影響を与え、後世の学者たちに大きな足跡を残しています。 ただし、偽作疑惑についても、歴史的検証が必要な部分です。彼の生涯と業績は、中国古代史研究において重要なテーマであり続けています。

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