平戸往還

平戸往還は、江戸時代に整備された街道の一つで、肥前国松浦郡日の浦（現：長崎県平戸市田平町）から江迎、佐々、早岐（現：佐世保市）を経て、彼杵郡彼杵（現：長崎県東彼杵町）で長崎街道に合流する、全長約57.5kmの道です。この道は、平戸街道とも呼ばれていました。

概要

平戸往還は、平戸藩主松浦氏の参勤交代や長崎勤番への往来に主に利用されました。平戸城からは、平戸瀬戸を船で渡り、対岸の田平町日の浦に上陸し、そこから陸路で平戸往還を通りました。街道には、本陣が6か所、一里塚が13か所置かれていました。

平戸藩関係者以外にも、1813年には伊能忠敬が沿岸測量の途中にこの街道を通過し、途中の江迎町内で木星観測を行っています。また、1850年には吉田松陰が平戸遊学時にこの往還を利用しました。

現在、国道204号、国道35号、国道205号の一部が平戸往還と並行していますが、コースが変わった箇所も多く存在します。2000年には、日蘭交流400周年記念事業の一環として、平戸市から佐世保市、西彼町（現：西海市）、時津町、長崎市を結ぶルートが「オランダ街道」と命名されました。

日ノ浦本陣から江迎本陣まで

日の浦本陣は、平戸から渡ってくる大名行列の要員が平戸瀬戸を渡り切るまで、待ち合わせる場所でした。平戸からの渡航は朝から始まり、昼前に全員が集合し、昼過ぎに出発するスケジュールが多かったようです。現在、日の浦本陣は明治時代までに解体され、現存していませんが、本陣裏の急坂を登りきった場所にある塀は現存しています。一行は台地上を東に進み、笠松天神社付近で伊万里経由の平戸街道と分かれます。分岐後、台地上を南下し、本山一里塚を通過します。ほとんどの区間は市道として活用されていますが、一部には廃道も存在します。この廃道の区間には、壱岐争奪戦に参加した対馬の宗采女一行が討ち死にした戦場跡があり、供養塔である対馬塔が建っています。廃道は江迎町境まで続いていますが、町境の手前の区間は大正時代に築造された溜池の底に水没しています。渇水期には、かつて街道の並木だった松の切り株が水面に現れるそうです。江迎町内に入ると、宿場に向かって急坂を一気に下ります。この坂は「長坂」と呼ばれ、自動車では一気に登れないほどの急勾配です。長坂を下りきる少し手前には長坂一里塚があり、伊能忠敬が木星の観測を試みましたが、曇天のために断念した場所でもあります。長坂を下り終えると江迎宿に到着します。

江迎本陣から佐々本陣まで

江迎本陣は、江迎宿より北に離れた山下家の酒造場に併設されています。完全に現存している唯一の本陣でもあります。江迎宿裏手の丘陵地を上り下りしながら江迎川に達すると、あとは延々と江迎川右岸を伝って江里峠まで向かいます。かつては国道204号との交点で左岸に渡っていたと言われていますが、渡り切ったすぐそばに平戸八景の高岩があり、頻繁に崩落していたことから、右岸ルートになったようです。ほぼ現在の長崎県道227号志方江迎線と同じルートで進みますが、山の田一里塚を過ぎたところで左折し、一気に江里峠まで登り切ります。江里峠付近は緩やかな峠道として、町道とは別ルートで現存しています。峠からの下りルートは、佐々川支流の市ノ瀬川の谷を通りますが、時代によって左岸ルートと右岸ルートが頻繁に変更されていたと考えられています。佐々川に達する前に右折し、山麓を縫うように西へ向かいます。途中の市ノ瀬窯は、瀬戸焼の再興を図るために有田への潜入を計画していた加藤民吉が潜伏し、修行した場所と言われています。佐々本陣は佐々の街中から遠く離れた鴨川にあったと言われていますが、痕跡は全く残されていません。

佐々本陣から中里本陣まで

佐々本陣を出ると、国道204号と同じく佐々川右岸の断崖を南下します。古川一里塚を過ぎて古川渡で佐々川を渡ります。佐々本陣は常に使われるとは限らず、佐々川が氾濫した場合に水が引くまで待ち合わせる場所という性格であったようです。ここで佐々川から離れ、平野の東端部の丘陵地を進みますが、現佐々中学校裏から東光寺・三柱神社参道まで、狭い町道として残っています。国道沿いの口石一里塚を過ぎてから左折し、半坂峠へと上ります。半坂峠は宗家松浦が平戸松浦を迎撃した古戦場です。半坂峠を下ると、嘘越を迂回してきた国道204号と再び合流します。本山の住宅地を抜けると相浦川に達し、渡るとすぐに中里宿です。中里本陣は現在も続く造り酒屋に位置していましたが、明治時代の失火で全焼し、レンガ積みの洋風工場に建て替えられたため、現存していません。

中里本陣から佐世保本陣へ

中里本陣からは、相浦川沿いに東へ迂回します。中里の市街地を抜け、相浦川の左岸を進むと、やがて丘陵に達します。丘陵を登りつめると吉岡一里塚があります。下っていくと、左石に達します。対岸の左石宿に渡らず南に曲がると、堺木峠を乗り越えて北[[松浦郡]]から東彼杵郡に入ります。大村氏が建立した春日神社前をすり抜け、佐世保川の左岸に渡ります。断崖の中腹を行く往還は現在も市道として機能しており、狭いながらも交通量が多いです。断崖の中腹に俵一里塚があります。ここを乗り切ると、亀山八幡宮あたりから平地が現れます。ただし往還は丘陵地を迂回しながら進み、八幡宮・西方寺をすり抜けて代官屋敷に到達します。佐世保本陣は代官屋敷から新田を突っ切り、佐世保川のたもとに位置していました。明治期の都市計画によって現存していません。

宿場

日の浦 - 長崎県平戸市（旧北[[松浦郡]]田平町）
江迎 - 長崎県佐世保市（旧北[[松浦郡]]江迎町）
佐々 - 長崎県北[[松浦郡]]佐々町
中里 - 長崎県佐世保市（旧北[[松浦郡]]中里村）
佐世保 - 長崎県佐世保市（旧東彼杵郡佐世保村）
早岐 - 長崎県佐世保市（旧東彼杵郡早岐町）

主な遺構

江迎本陣跡（山下本陣）：佐世保市江迎町長坂 - 長崎県指定史跡。天保年間改築の本陣建物が現存。
脇崎一里塚跡石碑：佐世保市大塔町 - 国道35号沿い。

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