広尾彰

広尾彰：真珠湾攻撃で散った海軍軍人

広尾彰（ひろお あきら）は、1920年（大正9年）1月14日に生まれ、1941年（昭和16年）12月8日に戦没した日本の海軍軍人です。特殊潜航艇「甲標的」の艇長として真珠湾攻撃に参加し、その勇敢な戦いぶりから九軍神の一人として知られています。最終階級は二階級特進により海軍大尉。

生い立ちと海軍入隊

広尾は佐賀県三養基郡旭村（現在の鳥栖市）で、小学校長を務める教育者の父のもとに生まれました。佐賀県立三養基中学校（現在の佐賀県立三養基高等学校）を経て海軍兵学校に入校。海兵68期生として、豊田穣、酒巻和男、鴛淵孝らと同期で、松永市郎とは中学の同窓でした。

1940年（昭和15年）8月に海軍兵学校を卒業後、特殊潜航艇（以下「特潜」）の搭乗員に選抜され、訓練を受けました。真珠湾攻撃への「特潜」参加が決定すると、広尾は5人の艇長の一人として選ばれました。他の艇長は、岩佐直治、横山正治、古野繁実、そして同期の酒巻和男でした。

真珠湾攻撃と戦死

広尾は艇附の片山義雄（戦死後、兵曹長）とともに、伊二〇潜水艦から出撃しました。しかし、真珠湾攻撃で戦死。1960年、真珠湾近隣のケエヒラグーンで米軍のダイバーによって引き揚げられた潜航艇は、ハッチが中からロックされておらず、艇内に遺体はありませんでした。内部は自然な損傷とは考えられないほど損傷しており、自爆用の爆薬は使われていませんでした。また、魚雷は2発とも発射されておらず、危険と判断されたため、発射管に入ったまま海中で切り落とされました。

この潜航艇について、当初は古野艇であるという説が有力でしたが、現在では広尾艇であるとする説が有力です。その根拠として、魚雷が発射されていない点、広尾が魚雷を撃ち尽くした後は切り込むと発言していた点、遺体がなくハッチが内側からロックされていなかった状況などが挙げられます。当時の海軍潜航艇の関係者や日本の多くの研究家が、この説を支持しています。しかし、海軍史研究家の葭英夫は、駆逐艦ウォードに撃沈されたと見られる別の艇を広尾艇と見ています。

人となり

広尾は兵学校時代、成績優秀で体育にも励み、特に体操を得意としていました。しかし、入校当初は水泳が苦手でした。出撃前の帰省では、母親と並んで眠り、出撃直前には弁当とサイダーを渡され、「まるでピクニック」と笑っていたというエピソードが残っています。また、同期生の中でも随一の詩吟の名手であり、一徹者で敢闘精神にあふれていましたが、融通が利かない一面も持っていたと言われています。柔道では小柄ながらも激しいファイトを見せていました。

死後

真珠湾攻撃に参加した「特潜」特別攻撃隊は、連合艦隊司令長官・山本五十六から感状を授与され、広尾らは軍神とされました。作家の獅子文六は、横山正治を主人公にした小説「海軍」を著しましたが、広尾も主人公の有力候補でした。広尾の弟・昭行は、兄の死後、家族が常に完璧な人間でなければならないという雰囲気の中で過ごし、母親が若くして亡くなったのはそのせいではないかと語っています。

山本五十六は当初、この攻撃計画に反対していましたが、収容の見込みが立ったとして承認しました。しかし、懸念は払拭されず、出撃直前にも第六艦隊司令長官・清水光美に一存で取りやめる許可を与えています。戦死の報を受けて、二首の和歌を詠みました。

広尾は死後、正七位勲五等功三級が贈られ、戒名は忠晃院釈義彰です。佐賀県鳥栖市の朝日山麓に墓碑があります。

栄典

功三級金鵄勲章

参考文献

佐々木半九、今和泉喜次郎『決戦特殊潜航艇』 朝日ソノラマ ISBN 4-257-17047-6
獅子文六『海軍随筆』 中公文庫 ISBN 4-12-204232-1
豊田穣『同期の桜』光人社 ISBN 4-7698-0167-X
豊田穣『江田島教育』 集英社文庫 ISBN 4-08-750697-5
豊田穣『蒼空の器』光人社NF文庫 ISBN 4-7698-2002-X
* 中村秀樹『本当の特殊潜航艇の戦い』光人社NF文庫 ISBN 978-4-7698-2533-3

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