庭中

庭中（ていちゅう）とは

庭中とは、中世日本における訴訟手続制度のひとつであり、訴人が直接訴訟機関に訴えを起こすことを指します。この制度は、訴訟手続の過誤や担当の奉行の怠慢によって不利益を被った訴人が、救済を求めるために設けられました。異議申立てとしての越訴とは異なる性質を持っています。

概要

庭中における「庭」という言葉は、元々朝廷内で訴訟を行う場所、すなわち文殿や記録所を指します。ここで行われる口頭での直訴を「庭中」と呼びました。初めは、朝廷はこのような行為を禁じていましたが、鎌倉幕府が成立すると状況が変わります。訴人が自らの訴えを無視される場合や、訴状を受理された後に訴訟手続きが遅延または誤りがあった場合に、口頭で訴えることが許可されるようになりました。

これは、主従関係の下で主君が従者の訴えに耳を傾ける義務があるという理念に基づいており、御家人と呼ばれる従者たちの口頭の訴えを鎌倉殿やその権限下の幕府機関が受理しなければならないと認識されていました。実際、鎌倉では、執権や連署が参加する評定に対して行われる「御前庭中」と、引付の座に対して行われる「引付庭中」が設置され、訴状や判決記録が検討され、訴人と担当奉行人が対峙する形式が取られていました。

対照的に、六波羅探題には専門の庭中奉行が設置され、庭中申状、すなわち庭中訴状の提出によって提訴が行われました。鎮西探題における制度は不明ですが、六波羅探題同様の制度があったと考えられています。なお、鎌倉での庭中は口頭での訴えが原則であったため、記録が残ることは少なく、詳細な情報には多くの謎があります。

伏見天皇が実質的に治天の君として君臨していた時期に実施された「永仁徳政」によって、朝廷でも「公家庭中」と呼ばれる庭中制度が取り入れられました。この制度は、参議、弁官、記録所寄人から構成され、治天の君が臨席することが前提とされ、鎌倉の制度を模範とした口頭による提訴が認められました。これは、当時の訴訟過程において遅延や停滞が頻発していたことに対する対応策とされています。

南北朝時代には、北朝で制定された暦応雑訴法にも庭中に関する規則が存在し、庭中制度は引き続き特筆される存在でした。さらに室町幕府では庭中方が設置され、申状により提訴が行われましたが、将軍の権力が強化されていく中で次第に庭中方は廃止され、正式な手続きを経ずに将軍への提訴を「庭中」と呼ぶようになり、これが禁止行為とされるようになりました。

参考文献

• - 古沢直人「庭中」（『国史大辞典 9』 吉川弘文館、1988年 ISBN 978-4-642-00509-8）
• - 羽下徳彦「庭中」（『日本史大事典 4』 平凡社、1993年 ISBN 978-4-582-13104-8）
• - 稲葉伸道「庭中」（『日本歴史大事典 2』 小学館、2000年 ISBN 978-4-095-23002-3）
• - 藤原良章「庭中」（『歴史学事典 9 法と秩序』 弘文堂、2002年 ISBN 978-4-335-21039-6）
• - 上杉和彦「庭中」（『日本中世史事典』 朝倉書店、2008年 ISBN 978-4-254-53015-5）

関連項目

• - 直訴
• - 雑訴決断所

もう一度検索