彦国葺命

彦国葺命（ひこくにふくのみこと）は、生没年不詳の古代日本の人物です。

記録に見る彦国葺命

『日本書紀』では「彦国葺」、『古事記』では「日子国夫玖命」と表記され、他の文献では「彦訓服命」とも記されています。系譜によると、第5代孝昭天皇の皇子である天足彦国押人命の三世孫または四世孫にあたり、和珥臣（和珥氏）の遠祖とされています。垂仁天皇の時代には、五大夫の一人として重んじられました。

武埴安彦の反乱鎮圧

『日本書紀』によれば、崇神天皇10年、武埴安彦とその妻である吾田媛が謀反を起こした際、彦国葺命は大彦命（阿倍氏の祖）と共に山背に派遣されました。彼らは、和珥武鐰坂（現在の奈良県天理市和爾町付近）に忌瓮を据え、精兵を率いて那羅山に登り、さらに輪韓河（現在の京都府木津川市木津町付近の木津川）へと進軍。川を挟んで武埴安彦軍と対峙しました。

彦国葺命は、武埴安彦が王室を傾ける者であると非難し、最終的にこれを討ち、反乱軍を鎮圧したと伝えられています。

垂仁天皇朝での活躍

『日本書紀』には、垂仁天皇25年、彦国葺命が武渟川別（阿倍臣の祖）、大鹿島（中臣連の祖）、十千根（物部連の祖）、武日（大伴連の祖）らと共に「大夫」の一人として数えられ、天皇から神祇祭祀に関わる重要な役割を命じられたと記されています。

『古事記』においても、崇神天皇の段で、日子国夫玖命が建波爾安王（武埴安彦）を討ったという伝承が語られています。

後裔

氏族

『新撰姓氏録』には、彦国葺命を祖とする以下の氏族が記載されています。

吉田連：大春日朝臣と同祖で、孝昭天皇の皇子である天帯彦国押人命の四世孫とされる彦国葺命の後裔。彦国葺命の孫には塩垂津彦命がいます。
真野臣：天足彦国押人命の三世孫である彦国葺命の後裔。彦国葺命の子には大口納命、孫には難波宿禰がいます。
和邇部：天足彦国押人命の三世孫である彦国葺命の後裔。
安那公：天足彦国押人命の三世孫である彦国葺命の後裔。
粟田朝臣：天足彦国押人命の三世孫である彦国葺命の後裔。
葉栗：小野氏と同祖で、彦国葺命の後裔。

国造

『先代旧事本紀』「国造本紀」には、以下の国造が彦国葺命の後裔として記されています。

額田国造：成務天皇の時代に、和邇臣の祖である彦訓服命の孫、大直呂宇命が国造に定められました。この地域は、現在の美濃国池田郡額田郷周辺にあたります。
吉備穴国造：景行天皇の時代に、和邇臣と同祖の彦訓服命の孫、八千足尼が国造に定められました。この地域は、現在の備後国安那郡周辺にあたります。

考証

彦国葺命が登場する武埴安彦追討の伝承は、和珥氏の伝承が起源とする説があります。その後、大彦命らの四道将軍伝説と結び付けられたと考えられています。伝承に登場する地名には、大化の改新以前の和珥氏の勢力範囲が反映されているという説も有力です。

彦国葺命は、古代日本の歴史において重要な役割を担った人物であり、その子孫は多岐にわたり、古代社会の形成に大きな影響を与えたことが伺えます。

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