和珥氏

和珥氏（わにうじ）とは

和珥氏とは、「和珥」を氏の名とする古代日本の氏族です。5世紀から6世紀にかけて、現在の奈良県北東部、特に奈良盆地東北部に広大な勢力を誇りました。和珥は、文献によって和邇、丸邇、丸とも表記されます。

出自

『古事記』や『日本書紀』などの伝承によれば、和珥氏の祖先は、孝昭天皇の皇子である天足彦国押人命（あめたらしひこくにおしひとのみこと、別名：天押帯日子命）であるとされています。この出自伝承は、和珥氏が皇室と深い繋がりを持っていたことを示唆しています。

歴史

勢力範囲

和珥氏の本拠地は、大和国添上郡和邇（現在の奈良県天理市和爾町・櫟本町付近）と添下郡一帯でした。この地域からは、後漢時代（184年-189年）の紀年銘を持つ鉄刀が出土した東大寺山古墳を含む櫟本古墳群があり、この古墳群が和珥氏一族の墓所であったと考えられています。古墳の規模などから、東大寺山古墳は彦国葺命、赤土山古墳は大口納命の墓と推定されています。しかし、和邇下神社古墳は規模が小さいため、武振熊命の墓とするには不適切であるとする指摘があります。

全盛期

和珥氏は、大和朝廷の外征に積極的に参加し、軍事的な業績を上げたとされています。『播磨国風土記』や『新撰姓氏録』などの記録から、その活躍を窺い知ることができます。特に、葛城氏が没落した後に、孝安天皇、開化天皇を始めとする多くの天皇に后妃を送り込み、その勢力を拡大しました。全盛期には、11人の后妃を輩出するほどでした。

6世紀頃になると、春日氏、小野朝臣、粟田朝臣、柿本朝臣、大宅真人、櫟井朝臣など、和珥氏から別姓を名乗る氏族が現れ始めました。特に、和珥春日氏が和珥氏の中心となり、後に春日氏へと改姓したとする説が有力です。

春日氏の衰退

春日氏に改姓した後、蘇我氏が台頭してくると、春日氏の政治力は急速に衰え、歴史の表舞台から姿を消します。しかし、その一方で、小野氏、柿本氏、粟田氏、大宅氏など、和珥氏から分かれた氏族は、それぞれの分野で活躍を続けました。

系図

以下は、『和邇氏系図』を基に、一部修正を加えたものです。太字は和珥氏本宗の当主を表しています。

和珥氏
春日氏
小野氏 - 小野妹子、小野篁、小野道風などを輩出
柿本氏 - 柿本人麻呂を輩出
粟田氏
大宅氏
櫟井氏

記紀の伝承

和珥臣の始祖は、観松彦香殖稲天皇（孝昭天皇）の長男である天足彦国押人命とされています。
天足彦国押人命の母は、孝昭天皇の皇后である世襲足媛（尾張連の遠祖である瀛津世襲の妹）です。
孝昭天皇の崩御後、天足彦国押人命の同母弟である日本足彦國押人尊が即位し、孝安天皇となりました。
崇神天皇の時代には、彦国葺命が武埴安彦の反乱軍を鎮圧し、武功を挙げました。
仲哀天皇の崩御後には、武振熊命が将軍として忍熊皇子の反乱軍を鎮圧しました。
応神天皇の皇太子である菟道稚郎子の母、宮主宅媛は、日触使主命の娘です。
雄略天皇、仁賢天皇、継体天皇の時代にも、和珥氏から皇妃が輩出されました。

部曲

和珥氏は、大和国、山城国、近江国などの諸国から、北陸中部、中国地方、さらには讃岐国、甲斐国、伊豆国に及ぶ広範囲に、丸部（和邇部、ワニベ）と呼ばれる部曲を所有していました。

まとめ

和珥氏は、古代日本の歴史において重要な役割を果たした氏族です。その勢力は軍事力だけでなく、皇室との婚姻関係を通じて拡大し、後の氏族の発展に大きな影響を与えました。春日氏、小野氏、柿本氏など、和珥氏から分かれた氏族は、それぞれの分野で活躍し、歴史に名を刻んでいます。和珥氏の研究は、古代日本の政治や社会を理解する上で、欠かせない要素となっています。

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