阿倍氏

阿倍氏・安倍氏：古代からの名家とその隆盛と衰退

阿倍氏（後に安倍氏と改称）は、孝元天皇の皇子である大彦命を祖とする由緒ある皇族系の氏族です。飛鳥時代から奈良時代にかけては、朝廷において大臣級の高官を多数輩出し、大きな政治的影響力を持ちました。平安時代以降は「安倍氏」を名乗るようになり、陰陽道においても著名な一族として歴史に名を刻みます。

阿倍氏：飛鳥・奈良時代の活躍

阿倍氏の確実な歴史的登場は、宣化天皇の時代にまで遡ります。宣化天皇の大夫を務めた大麻呂（火麻呂とする説もある）は、当時の有力氏族である大伴氏、物部氏、蘇我氏に次ぐ地位を占める重臣でした。推古天皇の時代には蘇我馬子の側近として仕え、その影響力を示しています。

大化の改新後には、阿倍倉梯麻呂（内麻呂とも）が左大臣に任命されるなど、新政権においても重要な役割を担いました。阿倍氏からは多くの外交使節が派遣されており、倉梯麻呂もその高い見識を買われて抜擢された可能性が高いと考えられます。また、倉梯麻呂の娘たちが孝徳天皇や天智天皇の妃となったことは、当時の阿倍氏の勢力の大きさを示すエピソードです。

その後、阿倍氏は「布施臣」「引田臣」といった支族に分裂しますが、それぞれの支族を率いる阿倍比羅夫や阿倍御主人は、朝廷において活躍を続けました。比羅夫は斉明天皇に仕え将軍として活躍し、御主人は大宝律令下で最初の右大臣に任命され、「阿倍朝臣」の姓を授けられました。比羅夫の孫にあたる阿倍仲麻呂は遣唐使として唐に渡り、活躍したことで知られています。

しかし、御主人の死後、阿倍氏は藤原氏などの台頭により勢力を衰えさせます。

安倍氏：平安時代以降の陰陽道

平安時代初期には、阿倍兄雄や安倍安仁といった高官を輩出しましたが、その後は一時的に勢力を落としたと考えられています。しかし、平安時代中期以降は、安倍晴明を輩出した系統が主流となり、中世以降は土御門家として、代々陰陽道の家として知られるようになります。

安倍晴明の系統が阿倍氏の本流であるかについては、諸説あります。摂津国出身という説もあり、難波忌寸や吉師氏といった渡来系氏族との関連性が指摘されています。

安倍晴明とその子孫：陰陽道の隆盛と分裂

安倍晴明とその子孫は、賀茂氏とともに陰陽道、特に天文道を司りました。しかし、官位は従四位上にとどまり、先祖である兄雄と比較すると低いものでした。晴明の子孫は天文道に関する要職を独占しましたが、その地位や学説を巡る一族間の対立が激化し、複数の系統に分裂しました。

源平合戦期には安倍泰親が陰陽頭として活躍し、その子孫も高官に昇進しました。しかし、各系統間の対立は続き、さらに分裂を繰り返しました。暦道と天文道の業務の違いが、各系統間の競合を招いた一因と考えられています。

南北朝時代には、安倍有世がついに公卿の従二位にまで昇進し、陰陽師が公卿となったことは当時としては衝撃的な出来事でした。これは、泰親や有世が政治的な後援者を得ていたこと、そして優れた占星術の才能を持っていたことによると考えられています。

土御門家：陰陽道の家系

室町時代以降は、安倍有世を祖とする土御門家が陰陽道の家系として確立します。当初は有世一代限りの公卿という条件でしたが、有世の長年の功績から、その子孫も公卿に昇進し、堂上家の資格を得ました。土御門の地名にちなみ、土御門を名乗るようになります。

応仁の乱以降は若狭国に下向し、江戸時代には徳川家康に重用され、朝廷にも復帰しました。陰陽頭などを歴任し、陰陽道と垂加神道を融合した土御門神道を創設しました。改暦事業において幕府と対立する場面もありましたが、陰陽道の家系として確固たる地位を築きました。

明治維新後、陰陽寮は廃止され、土御門家は華族となりました。現在でも、土御門家には安倍晴明の血脈を受け継いでいるとされる人物がいます。

まとめ

阿倍氏・安倍氏は、古代から近世にかけて、朝廷や幕府において重要な役割を果たした氏族でした。特に安倍晴明を輩出した系統は、陰陽道において大きな影響力を持ち、土御門家としてその家系は現代まで続いています。その歴史は、日本の政治・文化史を理解する上で重要なものです。

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