後渤海

後渤海とは

後渤海（ごぼっかい）は、かつて存在したとされる王朝です。しかし、その存在を裏付ける確固たる文献史料が乏しく、近年発見された石刻史料などの考証から、その実在は否定される傾向にあります。

歴史研究の変遷

後渤海に関する研究は、断片的な史料を総合的に解釈することで進められてきました。例えば、東丹国に関する渤海人史料、各地に移住した渤海人に関する史料、『宋史』に見られる定安国に関する渤海人史料などが用いられています。しかし、史料の解釈方法によって研究者の見解が異なり、後渤海の存在を肯定する説と否定する説が存在します。

従来の研究では、渤海滅亡後に渤海の使節が中原王朝に派遣されたことから、後渤海のような継承国家が建国されたと推測されてきました。しかし、929年に日本へ派遣された裴璆（はいきゅう）は、渤海使ではなく東丹国の使者として認識されていたことが日本の史料に明記されています。さらに、近年発見された耶律羽之（やりつうし）の墓誌によって、これらの使節は東丹国のものであり、後渤海のものとみなす推定は存在しないとする見方が強まっています。

渤海人の反乱に関する記録も、異なる時期・地域・事情によるものを一括りに後渤海の史料とすることは無理があると考えられています。

従来の「後渤海」像

従来の説では、後渤海は以下のように考えられていました。

926年、契丹（遼）が渤海国を滅ぼし、旧渤海領に東丹国を設置。
各地の渤海勢力が反乱を起こし、その中心は大諲譔（だい いんせん）の弟（氏名不詳）だったとされる。
928年、東丹国が遼陽に移され、渤海遺民の移住が行われた。
王弟の大某（だいぼう）が忽汗城（こっかんじょう、龍泉府）に入り、渤海国の復興を宣言（後渤海（復興））。
大光顕（だいこうけん）も鴨緑府を中心に独立。
929年、渤海国（後渤海）が日本や後唐に支援を求めた。
930年、耶律倍が後唐に亡命し、契丹（遼）は東丹国を廃止。
934年、大光顕勢力が滅亡し、高麗に投降。
938年、烈万華（れつまんか）が後渤海から独立し、「定安国」を建国。
954年頃、渤海の崔烏斯（さいうし）らが後周に帰順し、史料から渤海の名称が消滅。

高麗人の後渤海認識

『三国遺事』には、皇龍寺九層塔にまつわる記述があり、その中で高麗人が認識していた周辺諸国が示されています。この記述からは、7世紀中葉には新羅にとって重要な敵国であった高句麗や百済が見当たらず、10世紀の状況を記述する中国史料に初めて登場する女真が現れるなど、当時の国際情勢を反映した内容となっています。また、第九層の「嗖貊」は『遼史』に登場する「䈸貊」であると考えられ、渤海滅亡後、その支配下にあった䈸貊人が東丹国の外側で一度自立したことが推察されます。

『三国遺事』には「靺鞨渤海」とあるように、朝鮮では渤海を「靺鞨」と認識していたようです。中国史料には、渤海滅亡から清泰二年（935年）までの10年間に8回の「渤海使入貢」の記事があり、顕徳元年（954年）以降も渤海使の記事が散見されます。しかし、『三国遺事』では第六層の「靺鞨」が第七層の「丹国（東丹国）」の上に置かれていることから、この「靺鞨」は後渤海を指すものと考えられ、高麗人が後渤海を靺鞨と認識していたことが窺えます。

まとめ

後渤海は、史料の解釈によって存在が揺らいでいる幻の王朝と言えるかもしれません。今後の研究によって、その実像が明らかになることが期待されます。

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