悟空

唐代の僧侶、悟空

悟空（ごくう、731年 - 812年）は、中国唐代の仏教僧侶であり、後の通俗小説『西遊記』に登場する主要人物、孫悟空の名前の由来になったとされる人物です。彼の生涯は、官吏から仏門に入り、インドでの仏典収集、そして帰国後の翻訳活動という、波乱に満ちたものでした。

生涯

悟空の俗名は「車奉朝」といい、京兆雲陽（現在の陝西省涇陽県）の出身でした。彼は南北朝時代の北魏の皇室、拓跋氏の末裔とされています。元々は唐朝に仕える官吏でしたが、天宝10載（751年）、玄宗皇帝の命により、天竺（インド）の罽賓国（カシミール、迦湿密）へ派遣された張韜光の使節団に随行しました。

天宝12載（753年）2月、使節団はガンダーラ（乾陀羅国）に到着しますが、そこで悟空は病に倒れ、使節団と別れてインドに留まることになりました。その後、彼は出家し、「ダルマダーツ」（達摩駄都、Dharmadhatu）という法名を授かりました（漢訳では「法界」）。それから数十年の間、インド各地の寺院を巡り、仏典を蒐集する旅を続けました。

故国への帰還を決意した悟空は、ウイグル帝国統治下のホータン（于闐国）やクチャ（亀茲国）を経由し、各地で持参した仏典の漢訳を依頼しました。そして貞元5年（789年）9月、約40年ぶりに帰国を果たします。翌年には、徳宗皇帝に拝謁し、仏典や仏舎利を献上しました。その功績により、勅命で正式に得度し、「悟空」の名を賜ったと伝えられています。その後、長安章敬寺の住持となり、仏典の漢訳に尽力し、徳宗皇帝からの深い崇敬を受けたと言われています。

悟空の天竺への往復に関する旅程や経由地をまとめた図録は『悟空入竺記』として残されています。また、『宋高僧伝』の巻3には「唐上都章敬寺悟空伝」として、彼の伝記が掲載されています。

『西遊記』との関連性

悟空の生涯は、『西遊記』のストーリーのモデルとなった三蔵法師（玄奘三蔵）の足跡と比較されることがあります。玄奘三蔵も玄宗皇帝の時代に西域を経由してインドへ赴き、仏教の経典を唐に持ち帰りました。また、その旅の記録を『大唐西域記』として残しています。これらの共通点から、『西遊記』において、西天取経の旅をする三蔵法師の従者である孫行者の名前が、同様に西天取経を行った僧侶「悟空」に由来するのではないかという説があります。

詳細については、『西遊記』の成立史に関する研究を参照することで、さらに深く理解することができるでしょう。

悟空は、単なる僧侶としてだけでなく、仏教の普及に貢献した偉大な人物であり、その足跡は後世の文学作品にも大きな影響を与えたと言えるでしょう。

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